2021年1月から始まる「大学入学共通テスト」では、英語の民間認定試験が導入される。だがこの7月にTOEICが試験参加を見合わせるなど、入試現場は混乱している。一体なにが起きているのか。大学ジャーナリストの木村誠氏がレポートする――。

※本稿は、木村誠『「地方国立大学」の時代 2020年に何が起こるのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

大学入試センター試験で、受験生にリスニング用の機器を配布する担当者=2019年1月19日、東京都文京区の東京大学(写真=時事通信フォト)

大学進学率は上昇し、学力のレベルは下がった

平成の30年で大学進学率は大きく上昇し、今や高校卒業生の55%が4年制大学に進学するようになった。ただし、ここまで大学生が増えれば、その学力の平均レベルが下がるのは残念だが、当然でもある。

学生の学力向上を図る教育再生実行会議において、すでに1990年代から、「大学生の学力低下対策」がその課題となっていた。

とはいっても、事実上「大学全入」となった状況下で、高校だけの学習改革だけ行っていても、十分な成果は得られそうにない。そこで、高校生本人のみならず、高校側が本腰を入れざるをえないような大学入試を設け、それを梃子に改革しよう、という動きが生まれた。

具体的には2020年からの大学入試で、高校の学習指導要領の改訂を反映し、高校や進学志望者の学習への動機付けを促進しようというのである。

思考力や表現力を問う「記述式」が加わる予定

文部科学省の高大接続改革答申によると、学力を支える要素とは、①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性の3つとされ、これらを持って多様な人々と協働し、学ぶ態度を育成することが求められている。この3要素を高めるために、高校と大学、大学入試を総合的に改革しなくてはならない。

教育再生会議は高校生の学力について、当初、授業の理解度を見る基礎レベルと、応用度の高い発展レベルに分けて試験を数回実施し、それらの達成度を判定して、大学入試の成績とする、といった構想を持っていたようだ。

その背景には、現行のセンター試験を受験生の多くが受けるようになり、今や55万人が受験する超マンモス試験となったことで、同時に試験としての意味合いや役割が限界に達しつつある、という認識があったとされる。

その後、中央教育審議会での議論を経て、発展レベルの考え方が、2020年から行われる新しい大学入学共通テストへとつながっている。新しいテストでは、センター試験で用いられた全面的な択一式マークシート方式から離れ、思考力や表現力を見る記述式など多様な設問方式が少なからず用いられる予定だ。