「結構みんな、愚痴を言いにくるんですね」
「子供が病気になったのだけど、どの病院がいいのか。健康診断を受けたいけれど日本語の書類の書き方がわからない。子供の学校からプリントが来ているのだけど読めないといった、書類関係がやはり多いでしょうか」
そんなときは落合さんが代筆をしたり、役所とかけあったりもする。
「この前は、日本語学校に2年通ったけれど、それからどうしたらいいのか……なんて相談もあったね。専門学校か大学に進学したいけれど、まだ日本語の会話スキルが不十分だから難しいかなあ、なんて話したり」
仕事の悩みも寄せられる。会社で日本人の上司とうまくいっていないとか、ミャンマーでは高度な仕事をしてきたのに日本では単純作業しか任せてもらえないとか、さまざまだ。
「結局みんな、愚痴を言いにくるんですね」
そうマヘーマーさんは笑う。ほかのミャンマー関連の支援団体は日本人が運営しているところばかりだが、ここに来ればマヘーマーさんがいる。だからミャンマー人は安心して、頼ってくるのだ。たかが愚痴でも、ミャンマー語で話し合い、身の上話を聞いてもらえるだけで、心はずいぶんと楽になるに違いない。
働き手や取材先を探す日本人も来る
日本人もやってくる。飲食店から誰か働き手がいないかと聞かれたり、タナカを使った化粧水を開発したからモニターになってほしいと頼まれたり、雑誌やテレビの取材、通訳や翻訳の依頼……。
「ピンポーン」
そこにいきなりの来客である。落合さんが扉を開けると、30歳くらいのロン毛メガネの日本人だった。
「あのですね、ファッション関連の仕事をしているんですけど、なにかこう、南アジア風の雑貨とかを背景にモデルの撮影をしたいんです。ここならいろいろ教えてくれると聞いて……」
などと言うのだ。唐突な来客にもマヘーマーさんは親切に、食材店などの場所を教えてあげるのだった。
「もしそっちで断られたら、またうちに戻ってきて。うちにも少し雑貨とかあるから、ここを使えばいいよ」
とっても優しいのであった。
「……とまあ、こんな具合にいきなり誰かがやってくる場所なんです」
いかにも愉快そうに落合さんは笑う。