なぜ年会費を引き上げても、会員数が増えるのか

なぜ、年会費を引き上げても、プライム会員数は増加するのでしょうか。「特典の数や内容」と「価格設定」との関係性から、割安感がその大きな要因となっているとの指摘もあります。2018年3月にJPモルガンが「プライム会員の価値」を数値化したのがそれです。

JPモルガンは、プライム会員の価値は2017年から2018年の1年間で12%増加し、会員年会費119ドルは784ドルの価値に相当すると試算しています。784ドルの価値の内訳は、図表1の通りです。

プライム会員の特典のうち、最も価値が高いのはプライムナウ(180ドル)で、以下、即日・翌日・2日便の無料配送サービス(125ドル)、プライム・ビデオ(120ドル)、キンドル・読み放題などのサービス(108ドル)、ツイッチ・プライム(108ドル)と続きます。

この結果から読み取れるのは、さまざまな分野で特典が拡充されてその一つひとつが積み重なると、極めて高い顧客価値が創出されるということです。こうした割安感に加えて、会員全てのライフスタイルで生み出されるニーズを満たすように特典を広げてさまざまな分野をカバーしながら、全方位的に会員をアマゾンプライムの中に閉じ込め続けるというわけです。

アマゾンプライムの価値の試算結果(画像=『サブスクリプション』)

日本の年会費はまだまだ引き上げられる

米国以外でプライム会員の年会費を見ると、英国が79ポンド(約1万1000円)で米国119ドル(約1万3000円)よりもやや低めに設定されています。また、ドイツは69ユーロ(8500円)と米国の3分の2弱で、日本は4900円と3分の1強の設定になっています。

雨宮寛二『サブスクリプション』(角川新書)

これら3カ国は、アマゾンの世界売上高でトップの米国に続く上位国に当たります。米国は、売上高2329億ドル(2018年)のうち、1601億ドルで全世界の69%を占めており、ドイツの198億ドル、英国の145億ドル、日本の138億ドルがこれに続きます。これら4カ国で、売上全体の9割を占めています。

ドイツ、日本、英国の3カ国で見た場合、現状では、英国の年会費が突出しています。人口(2017年)や1人当たりの名目GDP(2017年)から考えると、英国(人口:6600万人・1人当たりのGDP:3万9975ドル)は、既に頭打ちであることが分かります。それに比べて、ドイツ(人口:8200万人・1人当たりのGDP:4万4770ドル)や日本(人口:1億2600万人・1人当たりのGDP:3万8344ドル)は、まだまだ伸びしろがあると考えられます。

従って、アマゾンにしてみれば、会員数の増加と共に米国の年会費を段階的に引き上げたように、ドイツや日本の年会費もまた会員数の増加と共に、今後、まだまだ引き上げられると見ていると言えるでしょう。

雨宮 寛二(あめみや・かんじ)
ジャーナリスト
イノベーションやICTビジネスの競争戦略に関わる研究に携わり、講演や記事連載、TVコメンテーター、大学講師などを務める。単著に『ITビジネスの競争戦略』(KADOKAWA)、『アップル、アマゾン、グーグルの競争戦略』『アップルの破壊的イノベーション』『アップル、アマゾン、グーグルのイノベーション戦略』(すべてNTT出版)があるほか、『角川インターネット講座(11)進化するプラットフォーム』(KADOKAWA)に執筆している。
(写真=iStock.com)
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