コストコの「会員制」にヒントを得ている

それでは、アマゾンはどのようにして、このような仕組みを生み出したのでしょうか。その由来は、小売・卸売大手のコストコが採用する「会員制」に在ります。コストコは、会員制倉庫型店として既に認知されていますが、買い物をする際に、会員資格と年会費を必要とします。会員には年2回、専用の「パスポート」に加え、「ウォレット」と呼ばれるクーポンブックが送付されます。クーポン割引対象商品については、レジでの会計の際に自動的に割引が適用されます。コストコは、このような会員だけの特典を増やすことにより、自社へのロイヤルティの高い顧客を増やしているのです。

アマゾンは、このコストコの会員制のノウハウをアマゾンプライムに取り入れました。実際、2001年にジェフ・ベゾスがコストコの創業者であるジム・シネガルを訪問し、会員制サービスのノウハウについて教えを乞うています。コストコの会員制サービスからアマゾンは、小売業において顧客との継続的な関係を構築することが資産であり生命線であることを学んだのです。

アマゾンプライムは、サブスクとして多大な効果を発揮しています。米国の市場調査会社であるCIRP(コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ)がまとめた最新レポートによると、米国でのプライム会員数は、2018年10~12月時点で1億100万人に達しています。2013年10~12月時点の2600万人と比較すると約4倍で、直近の3年間でもほぼ2倍の伸び率を達成しています。1億100万人という数は、アマゾンの米国顧客全体の62%に相当します。つまり、概ね3人に2人はプライム会員というわけです。

「前受け金」があるから大型投資ができる

プライム会員の年会費は前払いですので、現在の米国でのプライム会員年会費119ドルから試算すると、アマゾンに1年前に手元に入る額は、米国だけで120億ドル超になります。アマゾンはこの前受け金を利用して、プライム会員の特典の拡充は勿論、新たなテクノロジーなどの研究開発投資や、物流センターの効率化や最適化を図る大型投資など、機動的な経営を実現しているのです。

アマゾンプライムのプライシングにも戦略性の高さが窺えます。米国にアマゾンプライムを導入したのは2005年2月ですが、当初は79ドルの年会費でした。特典も限定的で、翌日配送料金の割引や商品の2日後配送を追加料金無しで利用できるサービスのみと、配送分野に限られていました。その後、分野を広げ特典を徐々に増やしながら、年会費を増やしていくことに成功します。

2014年には99ドルに値上げし、2018年5月には現在の119ドルまで引き上げています。どちらも20ドルという大幅な値上げですが、会員数は減少することなく、逆に右肩上がりで増加し続けています。米国での会員数が1億100万人という極めて高い規模に達しても、対前年伸び率10%増を維持しているのです。