日本人の大半は話すことを得意としていない、いやむしろ苦手だと考えている。そのうえに“話す”ことが苦手と考えている人の大半は、自分だけが話し下手だと勝手に考えている。つまり、話し下手な人には、日本人のほとんどが話し下手であるという認識がない。また“話す”ことに苦手意識がある人は、“話す”ためにたくさんの資料を準備し、“話す”シナリオを作成し、あげくに“話す”ことを暗記しようとする。つまり“読む”という状況をつくってしまう。“話す”と“読む”ことの混同だ。これではパニック間違いなしだ。
ではこのパニック回避のためにどうしたらいいだろう。私が考えている一番大切なことは「自分も苦手だが相手も苦手なのだ」という認識だ。だからこそ互いに歩み寄り、互いを高め合うことができる。
この基本スタンスができたらあとは実践である。“読む・書く”と“話す”の一番大きな違いは、“話す”には目の前に相手がいることである。ならばその相手に自分を認識してもらうことから始めよう。その際いきなり自分のすべてを伝えようと気張らないことだ。一番避けなければいけないのが自慢話だ。最初は自分を見せるのではなく自分を感じさせる。だとするなら“話”の導入部は挨拶や天気、最近の話題など100%コミュニケーションが成立する内容から始めるといい。
次に心がけておきたいポイントは“難しい言葉”を使わないことだ。難解な言葉を使う人は“私って頭がいいでしょう”という自尊心・プライドのかたまりである。このような人が好かれるわけがない。また“難解な言葉”は覚えるのも大変なので、当然話そのものが理解しにくくなり、知らずに話している側の緊張感も高まってしまう。
「自分の言葉で話す」ことも大切。本からの引用や、部下が作成した原稿をあたかも自分で書いたように話すのは不快であり、聞いていてもすぐにわかる。たとえ原稿が用意されていても、自分の言葉で書き直し、ホットな情報を盛り込むようにしたい。
私自身は講演会においても事前に大まかな流れは決めておくが、原稿は用意しない。顔を上げ、当日の参加者の表情や全体の雰囲気(いわゆる空気感)を意識して話すようにしている。出席者にとって、より「新しい」話題こそが最大の関心事だからだ。瞬時に発想して自分のスピーチを組み立ててゆく、第一次想起力の習慣や訓練はプレゼンテーションや商談の場でも役に立つ。ビジネスの相手に会うたびにひとつでも新しい情報を提供できるようになれば、相手からも情報を引き出せるようになる。相手の貴重な時間をもらって、アイデアや情報を入手できるわけだ。“お客様から教わろう”という姿勢も生まれるので、相手からも魅力的な人間に映るはずだ。
“新しい情報”といっても、大げさに考える必要はなく、日常会話のレベルで差し支えない。ただし、相手にとって魅力的な話題を提供するには、情報収集と、それを基にどう発想していくか、考えるクセをつける必要がある。自分磨きについては、『1日2400時間 吉良式発想法』(プレジデント社刊)で紹介しているので、ぜひ参考にしていただきたい。