民主主義が「ポピュリズム」に食われている
国民の政治参加に道を開いたのが民主主義だった。第二次大戦後、西側諸国は民主化によって経済が大きく発展した。ところが東西の冷戦が終わるころ、経済成長が鈍くなり、民主主義の在り方に疑問が持たれるようになった。
そんななか移民・難民の排除、既成政党の批判、マスメディア非難、EU批判と離脱、支持者に直接訴えるツイッター政治、自国第一主義などが欧米諸国を中心に次々と存在感を増してきた。
いわゆる「ポピュリズム」と呼ばれる主義や政治の台頭である。日本でポピュリズムは「大衆迎合主義」とか「人気取り政治」と説明されるが、政治家は支持者の意に沿う政策を掲げ、有権者はそんな政治家を支持する。ポピュリズムの権化であるアメリカのトランプ氏と、ツイッターで結ばれた白人労働者層の関係を考えてほしい。
いまや民主主義がこのポピュリズムに圧倒されつつある。民主主義の危機だと思う。私たちの手で民主主義を取り戻さなければならない。それには選挙戦を通じて、国民のために活動する本物の政治家を、有権者の目で見て有権者の頭でよく考えて選ぶことである。
なぜ諸派の党派名はやけに分かりやすいのか
今回の参院選を見ると、諸派にくくられる政治団体の名前にこのポピュリズムがよく表れている。
たとえば「安楽死制度を考える会」や「NHKから国民を守る会」が、それだ。党派名がそのまま主義や主張を表していて有権者は判断しやすいだろう。しかし、これでいいのだろうか。
「安楽死制度を考える会」は、比例選1人、選挙区選9人を擁立した。法整備が進まない安楽死や尊厳死について「議論を始めよう」と主張している。
安楽死とは、毒物を注射したり、飲んだりして積極的に死を迎えることだ。安楽死法が制定されたオランダでも実施されることは少ない。これに対し、人工呼吸器や胃瘻、透析などの延命治療を中止して消極的に死を選ぶことを尊厳死と呼んでいる。重要なのは安楽死と尊厳死を区別することだ。
代表者の佐野秀光氏は政治団体「支持政党なし」の代表を兼任し、この党派は前回2016年の参院選では候補者を10人擁立し、当選者ゼロだった。獲得票数は、60万票余りだった。
「NHKから国民を守る党」(比例選4人、選挙区選7人)は、元NHK職員が2013年に設立した党派だ。「NHKに受信料を払わない方を全力で応援してサポートする」との政策を掲げ、契約者だけが視聴できる「スクランブル放送」の導入を訴えている。国会に議席はないが、31人の地方議員が所属している。
「安楽死制度を考える会」「NHKから国民を守る党」という党派名が有権者へのアピールだけを狙ったものだとしたら、ポピュリズムそのものではないか。