日本の経営者のプレゼンがひどく退屈なワケ

日本の経営者のプレゼンスタイルには2種類ある。

Informer(インフォーマー)か、Performer(パフォーマー)かだ。インフォーマーはただ、情報を淡々と伝える人、パフォーマーはエネルギーを込め、聴衆を動かそうとする人である。

これまで1000人を超える経営トップ、エグゼクティブ層のコミュニケーションコーチングにかかわってきた筆者の経験値では、10年前は、インフォーマーとパフォーマー型の割合は95:5といったところだったが、現在は80:20ぐらいまで変化してきている。

豊田氏は孫氏と並び、パフォーマー型の先駆者といえるが、いまだに日本の経営者の8割はつまらない内容をつまらない顔をして「朗読」し、聞き手の心をピクリとも動かさないインフォーマー型リーダーであることも事実である。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/toxawww)

トップのコミュニケーション力と企業価値は絶対的な相関関係を持つ。そのコミュ力とはプレゼン力のことではない。コミュニケーションにかける情熱とエネルギー、思いの総量である。豊田氏のコミュニケーションの優れた点は大きく分けて3つある。

① 「思い」を伝える

日本人のコミュニケーションはとかくロジック、データ重視だ。ファクトが伝われば、人を動かせると考えている節があるが、ファクトやロジックが人を動かすことはない。動かすとすれば、それらが「喜び」や「感動」などといった聞き手のエモーション(感情)を喚起するからである。

この点を豊田氏はよく理解しているようだ。だから、プレゼンに堅苦しいファクトなどはあまり登場させない。「変革の時代に、トップ自らが自分の言葉で『思い』を伝えることが何よりも大切だという信念を持っている」と豊田氏の関係者は筆者に語ったことがある。だから、「自分はガソリンのにおいやエンジン音が大好き」など、あえて青臭いドライバー視点の言葉を使い聞き手のワクワク、ドキドキ、誇りといった感情をあおろうとするのだ。アップルのように、昨今の企業ブランドにとって最も重要なのは、スペックよりも、ファンや客とのemotional connection(感情的つながり)であることを彼自身、強く認識しているということだろう。

② 情熱とエネルギーを伝える

孫氏、永守氏、豊田氏、この3人に共通するのが、「高い体温」だ。永守氏は「社長は太陽でなければならない」というが、情熱とエネルギーをトップが持っていなければ、社員を鼓舞することも、励ますこともできない。捨て身で暑苦しいぐらいの情熱こそが、人を奮い立たせる。だから「体温とか血液が流れているさまを感じてもらいたい」(関係者)とあえて、大げさなジェスチャーや口調で、パワーの波動を送っている。

③ 「言いたいこと」より「聞きたいこと」を伝える

日本のトップの、というより、日本人のほとんどが、「伝えたいことを口にすれば、なんとなく伝わるのではないか」という幻想を持っている。しかし、実は「伝えたいことを伝えるから、伝わらない」のである。

人間が、自ら持つ信念を変えることは極めて難しい。結局は自分の信じる考え方しか、受け入れられない、すなわち、聞きたいことしか聞かない生き物である。ファクトやロジックや自分の信じる価値観などで相手を動かそうとしても、基本はなかなか動いてはくれない。であれば、相手の聞きたい内容に、自分のメッセージをさりげなく潜り込ませることしかできないのである。

豊田氏は、「聴衆がどういう人で何を聞きたいのか」にこだわって調べ上げる。だから、このスピーチも、相手に徹底的に「すり寄っている」し、「おもねっている」。一生に一度のはなむけの言葉なのだから、聞き手を楽しませよう、喜ばせようという「企み」がそこかしこに埋め込まれているのだ。