「無理しなくていい」を平常時まで多用しない
そこで問われるのがレジリエンスである。困難な状況にあっても、心が折れずに適応していく力。挫折して落ち込むことがあっても、そこから回復し、立ち直る力。辛い状況でも、諦めずに頑張り続けられる力。
このようなレジリエンスが欠けていると、困難な状況を耐え抜くことができない。そんなときに口にするのが、「心が折れた」というセリフだ。レジリエンスの高い人は、どうにもならない厳しい状況に置かれ、気分が落ち込むことがあっても、心が折れることはなく、必ず立ち直っていく。
スポーツ選手が大ケガをしたとき、「ケガが治るまでは筋トレや練習のことは忘れてゆっくり休んでなさい」というのは間違っていない。だが、ケガが治った後や、そもそもケガをしていない選手にまで、「筋トレや練習のことは忘れてゆっくりしなさい」などと言うだろうか。そんなことを言っていたら力のある選手は育たない。
ゆえに、大切なのは、「そのままの自分でいい」「無理しなくていい」といった緊急時の心のケアのセリフを平常時に適用しないことだ。そして、レジリエンスを高めるべく、心を強くする工夫をすることだ。その際に、記憶とのつきあい方が重要な鍵を握ることになるのである。
すぐに傷つく原因は性格ではなく、記憶システムにある
心のケアのセリフに平常時から馴染んでしまっては、どんどんレジリエンスの低い人間になり、忍耐力、協調性、やる気、感情抑制力などの非認知能力が低下してしまう。傷つきやすく、何かにつけて落ち込んだり、ヤケになったり、頑張らねばならない局面でもやる気が湧いてこなかったり、すぐに諦めたり、人とうまくやっていけなかったりして、仕事でも私生活でも苦労しなければならない。
実際、軽いうつが、現代型うつなどと呼ばれて、目立つようになっている。本人はほんとうに落ち込んで辛いのだろうが、多くの人がそれほど反応しないようなことにも過敏に反応してしまう。それで本人も大変な思いをするが、周囲も迷惑を被る。