あることを意識し始めたとたん、その事例が自身の周りで急に増えたように感じることを「バーダーマインホフ現象」、あるいは「頻度錯誤」と呼びます。この現象では、まず、最初の接触により興味を持ち始めることによって、対象に対する選択的知覚が発動されます。そして確証バイアス(欲しい情報だけを見聞きすること)により、その興味を満たす情報を無意識に探すようになるため、対象の頻度が急に増えたように感じられるのです。
この現象を使ったネットマーケティングの手法が「リターゲティング広告」と呼ばれるもので、商品を一度クリックしたりサイトを訪れたり、ショッピングカートに入れたりした見込み客に対して、同じ広告を何度も表示します。これは、ユーザーのパソコンやスマートフォンに残った閲覧履歴に基づいて、露出する広告をユーザー別にカスタマイズする仕組みを使っています。
Yahoo!のようなポータルサイトの画面脇に、自分が過去にクリックした商品が頻繁に現れることがあるでしょう。関心を示した見込み客に対して、その商品を何度も見せることによって「最近、この商品はよく見かけるし、人気があるんだ」と感じさせられれば、あとは利用可能性ヒューリスティックによる過大評価と単純接触効果によって購買意欲が自然と高まってきます。
悪いことも伝える広告
メーカーのウェブサイトで評価の高いレビューばかりだと、「どうせ、評価の悪いレビューは削除しているんだろう」と考えて、信憑性を疑いませんか?
いくつかの消費者行動研究でも、ポジティブ要因とネガティブ要因の両方を提示する両面提示広告では、ネガティブ情報が許容できるレベルであれば、むしろ情報の信頼性を高めるため、説得の効果が高いことが示されています。さらに両面提示の場合、ポジティブ要因とネガティブ要因のどちらを先に提示するべきかという順序効果の研究では、受け手がどれだけ広告を詳細に吟味して理解しようとするかによって効果が違うことが確認されました。
情報処理の動機が高い場合は初期メッセージに(初頭効果)、逆に動機が低い場合は最終メッセージに(親近性効果)、より強く影響されるのです。要するに、消費者が関心の高い商品・内容の場合は最初にポジティブ情報を、関心の低い商品・内容では最初にネガティブ情報を提示する方が、最終的な評価が高まることが示唆されます。
このように、CMや宣伝文句にはさまざまなテクニックが用いられています。普段何気なく目にしているCMや中吊り広告などをもう一度見直してみると、作り手が何を狙っているのか、分かるかもしれませんね。
東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授
1991年マサチューセッツ工科大学博士号(Ph.D.)取得後、2004年から現職。ノーベル経済学賞受賞者との共著も含めて、マーケティング学術雑誌に論文を多数掲載。2003年にJournal of Marketing Educationからアジア太平洋地域の大学のマーケティング研究者第1位に選ばれる。おもな著書に『(新版)マーケティング・サイエンス入門:市場対応の科学的マネジメント』(有斐閣)などがある。