金持ちも「年金は貰わないと損」と考えている

戦後の日本の年金制度では、あたかも掛け金が貯金であるかのような宣伝がなされてきた。現役時代の50%以上の所得を補償しますというのが最たるものだ。だから、豊かな生活を送るのに十分な所得や資産のある高齢者でも、年金は貰わないと損だと考えるようになった。自分は年金を掛けてきたのだから、貰って当然というわけだ。

だが、日本の年金制度は支払った掛け金を積み立てている「積立方式」ではなく、保険料がそのまま現在の高齢者の年金給付に充てられる「賦課方式」になっている。貯金ではないのである。

増税より保険料増のほうが実施しやすい

政府が、年金をあたかも貯金であるかのように国民に思わせてきた理由がもうひとつある。増税に反対する国民も、社会保険料負担の増加は受け入れてきたからだ。いずれ自分の年金給付として戻ってくると思うから、反対が小さいわけだ。

例えば、国民所得のうち、どれだけが租税負担と社会保障負担に回されてきたかを示す「国民負担率」をみると、これが鮮明だ。平成元年度(1989年度)の租税負担は27.7%、年金や健康保険などの社会保障負担は10.2%だった。それが実績が出ている最新の29年度(2017年度)では、租税負担は25.3%、社会保障負担は17.6%である。税負担はむしろ低下しているのに、社会保障負担は大きく増えたのである。国民負担率合計は42.9%と過去最高を更新している。

さすがに年金や健康保険の保険料をこれ以上引き上げることは難しい。後は消費税など租税負担を増やしていくしか方法はない。

今回の報告書を巡る問題は、財務省の深謀遠慮が背景にある、という指摘もある。「老後は2000万円の赤字」というのを喧伝し、十分な年金を支払うためには、もはや増税しかないと言いたいというのだ。老後の豊かな生活を国が保障すべきだと言い始めれば、当然、その分の負担は国民自身が負わなければならない。高負担なくして高福祉はない、というのは当たり前の話だろう。

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
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