だれが「年金だけでOK」と考えているのか
今回の議論を聞いている多くの国民も醒めている。「老後の生活は年金ですべてまかなえる」と考える人が、いまどれほどいるだろうか。
日本の貯蓄率は欧米に比べて高い。それは年金だけでは生活費が不足するという認識が一般的だからだ。一方で、貯蓄がなければ、年金だけで生活するしかない。
高齢世帯のうち、貯蓄をつくる余裕のなかった人、特に自営業などで国民年金しか受給できない人は、働ける限り働いている。生活費の不足を補うためだ。国会議員に言われなくても、すでに自助努力しているのだ。
それでは年金は何のためにあるのか。
年金は「保険」であって、「貯金」ではない
厚生年金の正式名称は「厚生年金保険」である。国民年金も掛け金は「保険料」だ。本来、年金は「保険」であって、「貯金」ではない。老後、生活が立ち行かなくなった人には年金(保険金)を支払うが、十二分の所得や資産のある人には支払わない、あるいは減額する、そうした弱者を助ける制度が前提になっている。
世界で初めて老齢年金保険制度をドイツの宰相ビスマルクが導入したのは、鉱山労働者が退職後、身体を患い生活が困窮するのを助けるためだった。困窮世帯が増えることで社会主義が浸透することを避けるのが狙いだったとも言われている。つまり、貧困対策、困窮者救済が年金制度の当初の狙いだったわけだ。