「人生は計画できるもの」というのは錯覚にすぎない

しかしなぜ、「能力の輪」という考え方にはこれほどの影響力があるのだろうか? 「能力の輪」を知ることが人生の成功にもつながるのはなぜなのだろう?

答えは簡単。平均的なプログラマー(能力の輪の外側)と比較したときのすばらしいプログラマー(能力の輪の内側)の優秀さの度合いは、2倍や3倍や10倍どころではないからだ。

何か問題が起きたとき、すばらしいプログラマーは平均的なプログラマーが必要とする1000分の1の時間でその問題を処理してしまう。

同じことは弁護士にも、外科医にも、デザイナーにも、研究者にも、販売員にも当てはまる。「能力の輪」の内側と外側の能力差には、1000倍もの開きがあるのだ。

ほかにもある。「人生は計画できるもの」というのは錯覚だ。

予想外の出来事は人生のいたるところにころがっているし、ときには大暴風クラスの出来事が待ち受けていることもある。

だが一カ所だけ、穏やかな風がそよいでいる場所がある。それは、「能力の輪」の内側である。その内側でも海面は凪(なぎ)の状態とまではいえないものの、波のうねりはそう高くない。少なくとも安全に航行を続けられる程度だ。

素っ気ない言い方をすれば、自分の「能力の輪」の内側でなら、間違った思い込みや考え違いに対しても適切な対応措置がとれる。それどころか、従来の慣習を打ち破るようなリスクを冒すことだってできる。

「能力の輪」の内側では、必要なだけ先を見通し、その後に起こる事態を予測することができるからだ。

大事なのは「ひとつの分野」で抜きんでること

結論。「自分に不足している能力」に不満を感じるのは、やめよう。

ロルフ・ドベリ著、安藤実津訳『Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法』(サンマーク出版)

踊りが不得意なら、サルサのレッスンはやめればいい。描いた絵を自分の子どもに見せてそれが馬か牛かわかってもらえないようなら、画家を夢見るのはやめればいい。おばさんが訪ねてきただけでてんてこ舞いなら、レストランを開く構想など頭から締め出せばいい。

あなたが、いくつの分野で「平均的」だろうとあるいは「平均以下」だろうと、そんなことはどうでもいい。大事なのは、あなたが少なくとも「ひとつの分野」で抜きんでているということだ。

それが世界レベルの優秀さならいうことなし。もし何かの分野で秀でた能力を持っているようなら、あなたはすでによい人生の前提条件を備えていることになる。

ひとつでもすばらしい能力があれば、欠点がいくつあろうと帳消しになる。

同じ1時間を費やすなら、「能力の輪」の外側よりも内側のことにしたほうが1000倍も価値がある。

ロルフ・ドベリ
作家、実業家
1966年、スイス生まれ。スイス、ザンクトガレン大学卒業。スイス航空会社の子会社数社にて最高財務責任者、最高経営責任者を歴任後、ビジネス書籍の要約を提供する世界最大規模のオンライン・ライブラリー「getAbstract」を設立。35歳から執筆活動をはじめ、ドイツ、スイスなどのさまざまな新聞、雑誌にてコラムを連載。著書『なぜ、間違えたのか?――誰もがハマる52の思考の落とし穴』(サンマーク出版)はドイツ『シュピーゲル』ベストセラーランキングで1位にランクインし、大きな話題となった。本書はドイツで25万部突破のベストセラーで、世界29カ国で翻訳されている。著者累計売上部数は250万部を超える。小説家、パイロットでもある。スイス、ベルン在住。
(写真=iStock.com)
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