アスレチックスは、セイバー・メトリックスの分析に基づいて選手を獲得・起用するとともに、得点確率を上げる戦術を実行し、強豪チームへと成長した。詳細はマイケル・ルイスの『マネーボール』に記述されている。『マネーボール』は映画化もされているので、そちらも見てほしい。監督はベネット・ミラー、ビリー・ビーンをブラッド・ピットが演じている、2011年の作品である。

すぐれた身体能力を有する選手ばかりで構成されているメジャーリーグ。そのなかで、常勝チームを作るために、徹底したデータ分析を行う。今や、データ分析能力に劣るチームは、決して強豪チームにはなれないのである。日々、各球団に共有されているデータに自チーム独自に収集したデータを加えて分析を行い、他チームがいまだ気づいていない勝利へのヒントを得ることが、メジャーリーグでは実践されているのである

多くの仮説を徹底検証するセブン-イレブン

データに基づく経営で有名なのは、セブン-イレブンである。すべてのコンビニエンスストアには、POS端末が導入され、個客の購買履歴が把握されている。それにもかかわらず、個客の購買行動を徹底的に分析しているのは、セブン-イレブンだけである。

単に売れ筋・死に筋商品の判定を行い、顧客の購買単価上昇を目指すだけでは、POS端末および情報処理システムへの投資は絶対に回収できないだろう。セブン-イレブンの強みは、購買履歴をベースとして、棚割りや導線を変化させるだけでなく、どの商品とどの商品が同時に購入されるのか、なぜ同時なのか、来店時間と購買行動がどのように関係しているのか、店舗の立地がどのように影響するのかなどについて、驚くほど多数の仮説を設定し、その仮説が妥当なものであるかどうかがデータ分析を通じて徹底的に検証されているところにある。

仮説が支持された場合、その仮説から導かれる店舗運営のさまざまな実証実験が行われ、個客の購買行動の解明が行われるのである。このような分析力のない他のコンビニエンスストアは、セブン-イレブンの行動を後追いすることしかできない。データ解析上重要なのは、ハウスカードを通じて獲得できる顧客の実年齢や性別ではなく、POS端末を操作する店員(その多くは、アルバイト店員)が、入力する顧客の「見た目」の年齢と性別である。「見た目」の年齢と性別が、購買行動の間に影響するからである。メンズの雑誌を購入するのは、男性だけではない。基礎化粧品に興味を示すのは、女性のみとは限らないのである。