なぜ、苦しくなるまでビュッフェを食べ続けるのか

日本でも八ッ場ダムのような公共事業の例があります。身近な話だと、年会費を支払ってしまったため、他にもっと有意義なことに時間を使えるのに義務感から行くスポーツクラブ、元をとろうと苦しくなるまで食べ続けるビュッフェ、あと一つで景品がもらえるという理由で必要ない買い物をしてしまうスタンプカード、損切りのできない株など、これらはすべて「いまやめたらもったいない」といって損失が拡大する例です。

サンクコスト効果が起きる理由は、すでに投資したので捨てられないという「損失回避」、投資を始めてしまったので惰性からなかなかやめられない「現状維持バイアス」、同じモノやコトに接触する回数が増えるにつれ、その対象に対して好印象を持ってしまう「単純接触効果(ザイアンス効果)」、当初の判断ミスの責任から逃れるための「自己正当化」、この時点で判断を覆して自分の失敗を認めたくないという自信過剰、自尊心を傷付けられたくないという評判の維持、などさまざまです。

思い入れが冷静な判断力を削ぐイケア効果

多くのゲームではアイテムやその他の手段によってキャラクターをカスタマイズできるようになっています。これは昔からある仕組みで、ソーシャルゲームに限りません。90年代にヒットした「たまごっち」では、キャラクターにえさを与えたり、なでたり、プレーヤー自身がゲーム機を持ちながら歩いたりすることによって、独自のキャラにカスタマイズさせることができました。こうなると、プレーヤーは自分が育成したキャラクターに、単なる保有効果以上の愛着を感じてしまい、手放せなくなる「イケア効果」が発生して、ますますゲームをやめられなくなります。

イケア効果とは、自分用にカスタマイズされた成果物や対象に対する愛着が、自身が投入した労力、時間、費用というサンクコスト効果をさらに増強する現象です。イケアの製品は消費者が自ら組み立てるようになっていますが、苦労して組み立てた家具には愛着があり、値段以上に価値を感じてしまう現象を米国デューク大学の消費者行動研究者アリエリーはイケア(IKEA)効果と呼びました。

イケア効果を示す例として、次のような話をご紹介しましょう。昔、アメリカのあるメーカーが、水を加えて混ぜて焼くだけでいいパンケーキミックスを発売しましたが、あまり売れませんでした。その理由は、料理があまりにも簡単なので、周りから手抜きをしていると見られることを主婦たちが心配したからでした。そこでメーカーは、ミックスから卵と牛乳の成分を除き、それらを料理人があとから加えるようにレシピを変更した製品を売り出したところ、爆発的に売れたそうです。