視覚と聴覚は「対立」ではなく「役割」が違う

――今年の4月には、「Screenless Media Lab.」という研究所を設立されました。目的は「音声メディアの可能性の研究」ということで、AIスピーカーを取り上げるなど非常にユニークな動きだと思いました。具体的にはどういった狙いがあるのでしょうか。

【三村】もともと音声のコミュニケーションには、視覚のコミュニケーョンとはちょっと違う、音声ならではの効果や効能があると思っていたんですね。「ラジオショッピングで購入された商品は返品が少ない」といった話が具体例です。それらに科学的エビデンスを付けて整理しようというのがこのラボなんです。

広告における最初のアプローチにおいて、すでに購買意欲がある人には視覚表現が一番効果的なんです。一方で、購買意欲そのものを掻き立てるには聴覚表現が良い。これはいろんなところで、すでに実証されている事実なんです。

――音声メディアの強みをしっかり定義するということですね。

【三村】そうです。視覚と聴覚は対立しているわけではなく、役割が違うと思うんですよね。とくに日本人は視覚偏重で、音声コンテンツに接触する率が少ない。人間はもっと音声コンテンツを楽しんだほうが豊かになれるんじゃないかと思います。

「Spotify」と一緒に音声メディアを研究できたらいい

――このラボで音声メディアの価値を可視化して、媒体の広告力を上げようという目的もありますか。

【三村】もちろんあります。ただ、所長をお願いしている政治社会学者の堀内進之介さんにも「研究目的は広告利用に限らないでください」と言っています。ラボではあくまでも公平、科学的に研究を進めてもらうことで、エビデンスを積み上げてほしいんです。

――ラボに「TBS」を冠していないのも、公平性を期すためにということなんですね。

【三村】そうなんです。ほかの局の社長にも会うたびに「そのうち一緒にやりましょう」と言ってます。僕は「Spotify」が入ってきたっていいし、レコード会社が入ってきたっていいと思っています。将来的には社外の財団にできるといいですよね。

――ラジオ業界はこの30年ほど右肩下がりが続いていますが、少なくとも将来のビジョンについては見えてきたということでしょうか。

【三村】そうです。広告メディアとしてのラジオの本当の評価がこれから始まるんじゃないかと思っています。そうすればラジオ広告市場のパイは30年ぶりに本当の意味で広がっていくわけですよね。それが僕の目標です。

三村 孝成(みむら・たかなり)
TBSラジオ 社長
1961年生まれ。83年慶大卒、読売広告社入社。93年J-WAVE入社、編成局長など歴任。2005年TBSラジオ&コミュニケーションズ(現TBSラジオ)入社。2007年に開局したクラシック専門局「OTTAVA」のクリエイティブディレクターなどを手がける。2016年メディア推進局長兼インターネット事業推進部長。2018年6月より社長。
(構成=いつか床子 撮影=プレジデントオンライン編集部)
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