業界1位のTBSラジオが、率先して業界の常識に挑み続けている。2018年11月には「スペシャルウィーク」を廃止。さらに「大沢悠里のゆうゆうワイド」と「荒川強啓 デイ・キャッチ!」という2つの長寿番組を終了させ、プロ野球のナイター中継からも撤退した。一連の改革の狙いはなにか。三村孝成社長に聞いた――。
TBSラジオの三村孝成社長(撮影=プレジデントオンライン編集部)

どうしても企画が「既存リスナー向け」に偏ってしまう

ラジオ業界の「スペシャルウィーク」とはビデオリサーチ社が実施している年6回の聴取率調査週間を指す。テレビの視聴率と異なり、調査は1週間の「日記式」で行われる。頻度は2カ月に1回(偶数月)で、結果は翌月に発表される。これまで各局はスペシャルウィーク向けに特別なキャンペーンやプレゼント企画を実施して、リスナーの争奪戦を繰り広げてきた。

TBSラジオの三村孝成社長は2018年11月の記者会見で「スペシャルウィークをやめる」として、聴取率アップを狙った特別編成を廃止し、今後はネット配信の「radiko(ラジコ)」のデータを番組作りの指標とすることを明らかにした。

――昨年11月の「スペシャルウィーク廃止」には驚きました。なぜこのタイミングだったのでしょうか?

【三村】私が昨年の6月に社長になったから、というだけなんですけどね。われわれは聴取率を追い求めることがどういう結果につながったかを、もっと冷静に判断するべきだと思うんです。各局間で聴取率競争をしても、市場が広がったとは言えません。

――新しいリスナーの獲得に至っていない、ということですか。

【三村】そうです。セット・イン・ユース(スイッチの入っている受信機台数の割合)も徐々に下がってきているんだから。でも、それって当たり前なんです。聴取率というのは、「聴取人数×聴取分数」なんですよ。聴取人数はリスナーの高齢化も受けて徐々に減っている。そうなると聴取率を取るためには、聴取分数を伸ばす必要があるわけです。リスナーは60代が一番多くて、そこからずっと下がっていって10代が一番少ない。そうすると、企画も無意識に高齢の既存リスナーに向けたものに偏ってしまうところがあります。

――既存のユーザーにどんどん当て込んでいくようになってしまうと。

【三村】もちろん既存のリスナーはすごく大切な存在です。ですが既存リスナーのニーズだけに応えているのでは、大福の好きな人に大福ばかり出しているようなもんですよね。そうやって365日のうち6週間、既存のリスナーの好きなものを出し続けるのがスペシャルウィークなんです。それよりも、好きか嫌いかは分からないけれど、新しい企画を提案をしていきたい。それが新規リスナーの獲得にもつながると考えています。

スペシャルウィークの廃止はむしろ遅いくらい

もうひとつ重要な要素として、ここ10年の広告主の変化があります。広告主が求めるものは2カ月に1回の数字ではありません。「『たまむすび』という番組にはリスナーが100万人います、半分が男で半分が女です、年齢はこういう分布です」というだけでは、媒体として評価してもらえません。「じゃあ車が好きな人、月に1~2回ドライブする人は何人ぐらいいるんですか?」と訊かれるわけです。

そういったリスナー属性をリアルタイムで分析するには、ラジコを使うしかない。ラジコはインターネットですから、そういう分析はどんどん進化するはずです。それならスペシャルウィークの聴取率を金科玉条のように目標にする必要はありません。

――では、昨年のスペシャルウィークの廃止は遅いぐらいだと。

【三村】はい。もうここ数年は2カ月に1回出てくるビデオリサーチの数字とラジコの動きは、少なくともデイタイム(日中)に関してはほぼ同じなんですよ。うちの制作現場だって、それは皮膚感覚として分かっていたので。もう機は熟していたんだと思います。