このうち、①中国景気と②為替レートを説明変数とする中国向け輸出の推計値をみると、2018年末から中国の内需減少やドル高元安によって輸出が大きく押し下げられたことが分かります(図表4)。もっとも、実際の輸出は推計値よりも大きく下振れており、それ以外の要因が大きな下押し圧力となっていることが示唆されます。

2018年に入り、米国のトランプ政権は、中国からの様々な輸入品に対し最大で25%関税率を引き上げるなど保護貿易政策を進めました。このため、中国政府は米国からの輸入品に対して幅広い関税を課したほか、大豆に関しては輸入を停止しました。加えて、中国国民による米国車の不買運動も起きました。こうした中国による一連の報復措置が、中国の内需減少やドル高元安に加えて、米国の中国向け輸出の減少に拍車をかけました。

関税によって世界経済はどうなるか

一方、関税によって、景気を下押しする副作用が生じることも懸念されます。関税引上げによる輸入物価の上昇は、消費財の場合、家計の購買力低下につながりますし、企業が使用する中間財や資本財の場合、コスト上昇による競争力低下や投資の減少につながるためです。

トランプ政権は、5月13日に中国からの輸入品約3000億ドル分に、追加関税を課す方針を発表しました。この対中関税第4弾がこれまでの第1~3弾と異なるのは、対象品目に、携帯電話やパソコン、衣服、玩具など、多くの消費財が含まれていることです。

井上 恵理菜『本当にわかる世界経済』(日本実業出版社)

これまで、消費者物価の上昇は軽微にとどまっていましたが、第4弾が実際に履行されれば、消費者物価は最大で+0.5%ポイント上昇し、消費を下押しするとみられます。さらに、株価の下落などを背景に、家計や企業のマインドが悪化すれば、消費や投資の減速を招き、米国経済の実質GDP成長率は2%を下回る水準まで低下すると見込まれます。米国は「消費大国」ですので、米国の個人消費が減速すれば、世界各国の輸出が減少し、世界経済の成長も下押しされることになります。日本も、景気減速の波を免れ得ないでしょう。

より長期的な視点で見ると、物価が上昇することよりも深刻なのは、輸入ができなくなることです。私たちの生活では、日本における石油や天然ガスのように、自国では生産が難しい財も、生活必需品となっています。保護主義が深刻化することによって生活必需品の輸入が困難になれば、人々の生命が脅かされる危険が高まります、自国第一主義を掲げて保護主義に傾倒することは、自国民の生命を脅かす道への第一歩であることを忘れてはなりません。

井上恵理菜(いのうえ・えりな)
日本総合研究所 研究員
慶應義塾大学経済学部卒業。日本総合研究所に入社後、日本・米国・欧州のマクロ経済分析を担当。公益社団法人日本経済研究センターへの出向を経て、日本総合研究所に帰任。米国経済の現状分析と将来展望に関するレポートを毎月発行し、新聞・雑誌などで米国の経済情勢に関する解説を行っている。
【関連記事】
トランプ氏に抱きつく安倍外交の手詰まり
米国とロシアを手玉に取る金正恩の捨て身
北朝鮮の増長をゆるす韓国外交の意味不明
詐欺犯は外国人コンビニ店員のレジに並ぶ
世界遺産に「殺された」富岡製糸場の教訓