たしかに、貿易収支よりも広い概念である、経常収支の赤字が問題となることはあります。経常収支とは、ある国が外国から受け取るモノから支払うモノを差し引いた概念です。このモノには、財のほか、サービスや利子・配当、所得などが含まれます。経常収支が赤字であるということは、国内のお金だけでは足りない部分を国外からもお金を借りて、国内の投資に回していることになります。

経常赤字国で、収益性の低い分野に投資がなされている場合や、過剰な投資によって国内が低貯蓄に陥っている場合には、その国の将来の所得が高まる見込みが小さいため、国外からの借入を返済できなくなるのではないかと懸念されます。

一方、現在の米国は、経常収支でも赤字国ですが、将来への成長期待が高く、他国から投資が集まっている状況ですので、経常収支の赤字が問題となってはいませんし、まして貿易赤字の部分だけを取り出して不安視する必要もありません。

関税を課せば貿易赤字は減るのか

ある国が貿易赤字を減らす目的で、輸入品に対して関税を課しても、貿易赤字が縮小するとは限りません。歴史上、A国が自国への輸入品に対して関税を課すと、他国もA国からの輸入品に対して報復関税を実施する事態が頻繁にみられました。この場合、A国は輸入だけでなく輸出も減ることになるので、最終的に貿易赤字が縮小する保証はないのです。

2018年以降の米中貿易摩擦の場合でも、米国が中国に対して関税を課した際、中国の報復措置によって米国の中国向け輸出が減少し、2018年の米国の貿易赤字は拡大してしまいました(図表2)。

2018年の米国の輸出入みると、輸入は、米国経済が、減税などの財政拡張政策によって好景気となり、内需が増加したため、前年比+9%と大きく増えました。国・地域別にみても、主要な貿易相手である、全ての国・地域からの輸入が増加しています。

他方、輸出は全体では+8%でしたが、国・地域別にみると、大半の主要輸出国・地域向けで増加した一方、中国向けは前年比▲7%と大幅に減少しました(図表3)。

中国向け輸出が減少した背景には、①中国景気が国内で過剰債務の削減を狙ったデレバレッジ政策を行ったことにより、景気が減速傾向にあったこと、②中国の景気減速・米国の景気拡大によって、ドル高元安が進んだこと、③トランプ政権が中国からの輸入品への追加関税を課したことに対して、中国が米国からの輸入品に対する追加関税を引き上げるなどの報復措置を実施したことの3つがあります。