米国のトランプ政権が中国に対する制裁関税を強化している。目的のひとつは中国に対する巨額の貿易赤字の解消だ。だが日本総合研究所の井上恵理菜研究員は「関税で貿易赤字を削減しようとしても、うまくいかないだろう」と指摘する――。

※本稿は、井上恵理菜『本当にわかる世界経済』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

拡大する国際貿易

貿易とは、国と国のあいだで行なわれる商品の取引を意味し、他国へ商品を売る「輸出」と、他国から商品を買う「輸入」の2つがあります。商品は、財とサービスに分けられますが、一般に貿易収支を語る際には、財の取引のみを指します。

現在、日々口にする食べ物から、日常生活に欠かせない携帯電話に至るまで、輸入品を手にしない日はほとんどないでしょう。財の輸出入は、増加傾向にあり、貿易は、私たちの生活にとってなくてはならない存在となっています。

貿易赤字とは何か

財の輸出入を国別にみると、輸出では、現代の「世界の工場」である中国の増加が著しく、2009年に米国やドイツを抜き去り、世界一の輸出国になりました。一方、輸入では、「消費大国」である米国が世界一の座を維持しています。

貿易収支とは、財の輸出から財の輸入を引いた差額です。輸出が輸入よりも大きければ貿易収支はプラス(黒字)になり、輸入が輸出よりも大きければマイナス(赤字)になります。

貿易黒字、貿易赤字の規模を国別にみると、貿易黒字は中国やドイツなど輸出主導型の国で大きい一方、貿易赤字は、米国や英国など消費主導型の国で大きい傾向にあります(図表1)。つまり、米国や英国は、国内の消費規模が国内の生産規模に比べて大きいため、他国から輸入することによって、国内の消費を賄っています。このように、国内の生産規模に比べて消費規模の方が大きい国で、貿易赤字が発生することになります。

貿易赤字は悪なのか

米国のトランプ大統領は、貿易赤字は米国企業が外国企業との競争に負けている結果であるととらえ、赤字を減らそうとしています。このように、貿易赤字は悪いことであるという考えを持つ人が一定程度存在します。

しかし、貿易赤字は一概に悪いこととは言い切れません。なぜなら、外国でしか生産されない財や外国で生産された方が品質や価格の面で優れている財を輸入することによって、その国の消費者は利益を得ているからです。