世界のビジネスエリートは会食のとき、仕事の話は最初の10分で終わり、あとは歴史・文学・美術などの話を続ける。果たして日本人ビジネスマンは何を学ぶべきなのか──。三賢人に、教養をどう学び、どう使うのか尋ねた。
(1)自分を賢くしてくれる教養とは?

出口▼幸せな人生は「知識」×「考える力」でもたらされる

みなさんは「おいしいごはん」と「まずいごはん」、どちらを食べたいですか? もちろん大半の人が「おいしいごはん」と答えるでしょう。では、おいしいごはんを因数分解したらどうなるか。「食材」と「料理法」に分解できます。よい食材を上手に料理したときにおいしいごはんになるのです。

立命館アジア太平洋大学(APU)学長 出口治明氏

人生も料理と同じ。「おいしい人生」は「知識」と「考える力」に因数分解できます。フランシス・ベーコンは「知は力なり」と言っています。16世紀半ばから17世紀前半にかけて哲学、神学、法学などの世界で活躍した人です。

ただし、よい食材を集めるだけではおいしいごはんが作れないように、知識ばかりを集めてもおいしい人生は送れません。卓越した料理人がよい食材を素晴らしい料理に変える腕前に当たるのが「考える力」です。つまり教養とは「知識」×「考える力」と定義すると一番わかりやすいと思います。

知識を得る方法は「人、本、旅」です。多分野の人に会って新しい知識に触れて刺激を受け、本を読んで知識を吸収して著者の考え方や発想のパターンを学び、訪れたことのない場所に行ってその地域の風習や価値観を学ぶ。この3つ以外に人間が賢くなる手段はないと思います。

教養における「知識」と「考える力」の比率は3対7くらいで考えるのが妥当です。

考える力は「発想力」と言い換えてもいいでしょう。会話をする相手も、ただ知識だけが豊富な人では退屈します。発想がユニークで面白い人と話しているほうが何倍も楽しい。

もちろん知識はあるに越したことはないのですが、その知識をどう料理するかのほうがはるかに大切です。

自分の常識を破ってくれる相手に、僕自身も引かれます。

竹中▼教養は、国を超えて人と人とをつないでくれる

勉強する目的の1つは、相手と戦い、勝つためです。経済の競争は厳しく、企業やそこで働く社員の生存競争も激しい。例えばフィンテックの時代に備え、金融工学を学ぶのは戦ううえで必要だから。英語を学ぶのはグローバリゼーションの時代に生き残るためです。