「僕の意見も聞かず勝手に話を進めないでください」
「僕の意見も聞かず勝手に話を進めないでください。ひどいじゃないですか。何のための話し合いなんですか?」
声を荒らげることはしませんでしたが、怒りの感情が確かに伝わってきました。
「いつの間にか法定免除をする方向で話が進んでいますが、僕は法定免除をしたくありません」
それを聞いて私はびっくりしてしまいました。
「え? そうなんですか? でも、障害基礎年金と老齢基礎年金はどちらか一つを選ぶことになります。障害基礎年金2級と老齢基礎年金の満額(法廷免除せず、払い続けた場合)は同じ金額です。65歳以降も障害基礎年金を受けることになると、言い方は悪くなってしまいますが、今後も国民年金保険料を支払ってもあまり意味がないかもしれません……」
「それはずっと障害基礎年金をもらえるという前提ですよね? 仮に僕の症状が軽くなり65歳以降に障害基礎年金が止まってしまったら、老齢基礎年金をもらうことになりますよね?」
「確かにそうですね。精神疾患の方の場合、更新の診断書を提出した結果、症状が軽くなったと判断されると障害年金は一時停止されてしまうケースもあります。仮に65歳以降に停止してしまったら、その間は老齢基礎年金をもらうことになります」
「もし65歳以降に障害基礎年金が停止されても、同じくらいの金額の老齢基礎年金を受け取れるようにしたいのです。そうじゃないと毎日が不安で仕方がありません。僕の言っていることは間違っているのでしょうか?」
「国民年金保険料は僕の障害基礎年金から支払いたい」
長男は悲痛な面持ちで訴えてきました。
「なるほど。そうだったんですね。お気持ちはよくわかりました。勝手にお話を進めてしまって申し訳ありませんでした。では、改めてご長男の希望をかなえつつ、できるだけ貯蓄もできるように考えてみましょうか。お父様とお母様もそれでよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
ここで初めてご家族の全員がうなずきました。
「まずは国民年金保険料について考えてみましょう。今まで通りお父様がお支払いになりますか?」
するとご長男が言いました。
「いいえ。僕の障害基礎年金から支払うようにしたいです。父が支払うべき分は、貯蓄に回してほしいです」
「なるほど。わかりました。次に老齢基礎年金についてです。国民年金保険料を40年間未納も免除もすることなくきっちり納付すると満額になります。満額の金額は障害基礎年金2級と同じ78万100円です(2019年度の金額)。繰り返しになりますが、65歳になった時、老齢基礎年金と障害基礎年金のどちらか一つを選んで受け取ることになります。ここまではいいですか?」
「はい。大丈夫です」