自動車産業は衰退するのか
グローバルにおける移動のマーケットは、約9000兆円あると言われている。これから起こるのは、その巨大な市場を統合するプラットフォームの争いだろう。モビリティ市場のGAFAにならんとするプレーヤーは多い。鉄道系では、ドイツ鉄道が13年からMaaSのサービス「Qixxit」を提供している。また、ウーバーや滴滴出行といった配車サービス会社もプラットフォーマーを目指しており、グーグルなどルート検索や地図情報に強いIT系も主要なプレーヤーになりうる。
自動車メーカーも例外ではない。現時点で先頭を走っているのは、ドイツのダイムラーだ。子会社のムーベルは、ルート検索アプリの「Moovel」を提供。さらに公共交通のキャッシュレスサービスや、スマホで予約・決済ができるオンデマンド型乗り合いサービスを展開している。
しかし、自動車メーカーがサービスに舵を切れば、自動車が売れなくなって自分の首を絞めるようにも思える。また、フィンランドのMaaSは「自動車利用に依存した社会からの脱却」という目的があったため、MaaSは「対・自動車産業」という文脈で語られることが多い。とはいえ、必ずしもMaaSの普及に伴って、自動車産業が衰退するわけではない。
消費行動が所有から利用にシフトすれば、個人向けの販売台数は減る公算が大きい。だが、個人で自動車を持たなくなったとしても、モビリティサービスを提供する事業者が増えて、その会社は自動車を所有する。問題は、事業者用にどれだけ売れるかだ。
MaaSはサブスクリプションモデルであるため、普及すれば移動のコストが下がって、人々が気軽に自動車を利用できるようになる。たとえば「定額制で料金は変わらないから、ライドシェアで隣町までランチに行く」といった使い方が一般的になれば、自動車による移動距離は逆に増えるだろう。サービス化によって1台あたりの稼働率が高まり、使い倒せば買い替えのサイクルも早くなる。それらを考慮すれば、自動車の販売数はほぼ同じ、あるいは増えるのではないだろうか。
自動車というモノのニーズがなくならないことを考えると、自動車メーカーにとって、必ずしもプラットフォーマーを目指すことだけが最適解ではないかもしれない。アメリカの西部開拓時代、ゴールドラッシュで一番儲けたのは、金を掘りに行く人ではなく、彼らにツルハシを提供した会社だった。MaaSも同じだ。多くのプレーヤーがプラットフォーマーになろうと殺到しているなら、あえてそこを狙わず、MaaSのサービスに適した車両を提供することに徹してもいい。実際、トヨタはモビリティサービス専用の次世代EV「イーパレット」を発表している。このようにMaaS時代のツルハシを提供する戦略のほうが、ものづくりの強みを生かせる可能性も高い。