未知の分野の知識を、一夜漬けで身につける

実際に初対面の人とお会いして、あいさつと名刺交換が始まりますが、そのとき気にする点はずいぶんと変わってきていると感じています。60代、70代の年配の人は、あいさつや名刺交換を“儀式”のように重んじますが、世代によって感じ方が違うので、やり方を変えていいと思います。相手が30代、40代なら、あいさつはさっと済ませ、すぐ本題に入っても気にしない人が多いですからね。

ジャーナリスト 佐々木俊尚氏

名刺交換の儀式が好きな人は、「名刺はささげるように持て」などと言いながら、相手に対するリスペクトがないことが多い。相手がしゃべり終えていないのに、関心がないのか「ハイハイハイ」って言葉を被せてきたり。逆に「へえ! そうなんですか」「その話もう少し聞きたいです」と、相手の投げたボールを投げ返すことが一番大事だと思います。名刺交換のマナーとかよりも、まず相手へのリスペクトを持つことじゃないでしょうか。

人に会うというのは「相手の時間を奪う」ことなので、時間の観念を意識するのが一番です。相手が若い人なら「いい天気ですね」などの雑談も不要です。ただ、いきなり本題に入っても気にするか否かは、世代で分けられると思います。60代、70代の人は、いきなり本題に入るのは抵抗があるようですが、40代より下なら大丈夫でしょう。

むしろ、相手の知識レベルがどれくらいかを気にする人のほうが多いので、訪問先の業界動向や専門用語、キーワードになりそうな基礎知識を前もって頭に入れておくことを優先したほうがいい。相手個人に関する情報がなくとも、相手の業界や属する企業の現状・戦略についての基礎知識を持っておけば、相手の話題にもある程度は合わせられます。

ジャーナリストの場合は、いろんな分野の人と会いますから、未知の分野の知識を一夜漬けで身につけるスキルが求められます。新聞記者というのは、それを延々とやっているわけです。大きな事故や事件が発生した際は、一夜漬けどころか30分漬けで頭に叩き込み、短時間で集中的に原稿をつくります。ビジネスシーンでも、初めての人に会うなら、そのぐらいの気概と覚悟で望んだほうがいいんじゃないでしょうか。

僕らの仕事は、インタビューは事前に誰と会うかがわかっているので、相手のことは事前に本人が覚えているよりも詳しく調べます。かつては大宅壮一文庫で過去の雑誌記事を調べましたが、今はネットで大まかに調べられますから、著名人ではなくともウェブでコーポレートのホームページの中の記事を読むとか、過去の新聞・雑誌記事検索で相手の経歴や著書を調べ、アマゾンなどで数冊買って読むのが基本スタンスです。