経営不振の名目で不透明な解雇が横行している

これらはいずれも、経営不振が原因となった整理解雇、いわゆるリストラの事例です。こうした整理解雇が法的に認められるか否かは、判例の積み重ねによって、次の4つのポイントから判断されます。

1つは、人員削減の必要性です。労働者、特に正社員を減らしてまでしなければ回避できない差し迫った経営危機があるのか、ということです。

2つは、解雇回避努力義務を尽くしたかどうか。いきなり解雇という手段に訴えるのではなく、残業削減、配転・出向、新卒採用の停止、非正規社員の雇い止め、希望退職者募集などの措置を講じ、解雇という“伝家の宝刀”を抜くことをためらったか、が問われます。

3つは、被解雇者選定の妥当性です。誰に辞めてもらうのか、客観的かつ合理的な基準が定められなければならないのです。

最後の4つは、解雇手続きの妥当性です。ある場合は労働組合、ない場合は個々の労働者に対して解雇に関する十分な説明を行い、誠意をもって交渉しなければならないことになっています。

上記に照らして先の4事例を見ていくと、どれも解雇の有効性に疑問符を付けざるを得ません。

濱口氏はこうまとめます。「日本の正社員は、整理解雇の4要件によって手厚く保護されているといわれますが、多くの中小企業は違います。経営不振という理由だけで極めて簡単に整理解雇が行われています。経営不振と言い張れば、解雇がいとも簡単に、半ばフリーハンドで行われているというのが実態です」

労働局のあっせんを利用し、泣き寝入りせず戦うべき

さて、主に中小企業における日本の非円満退職の事例を多数見てきました。働く人たちはここから何を学ぶべきなのでしょうか。

ポイントは大きく2つあります。一つは、厚生労働省の地方組織である労働局によるあっせんの存在と仕組みをしっかり理解することです。あっせんとは、紛争当事者たる企業と労働者の間に弁護士、大学教授などの専門家が入り、双方の主張を確かめた上で話し合いを促進することによって紛争の解決を図ることをいいます。民事訴訟に比べ手続きは簡単な上、無料でできます。こうした制度はいざという場合、使わない手はありません。

先の2冊には、あっせん事例が金銭で解決した場合(多くは解雇した会社が労働者に支払う)、その具体的金額が記されています。低い場合は3万円などという例もありますが、高いものでは100万円というケースがあります。

100万円の事例では、当人が「あっせんでの和解が望めないとなれば、裁判に持ち込みます」と会社に言ったことが奏功し、そこまでの金額になったそうです。濱口氏いわく、「解決金額は当事者の態度(気迫)によって左右される」そうですから、理不尽な解雇をされた場合、泣き寝入りせず、戦うべきです。

もう一つは、労働者はある程度、労働法を理解しておくべきだということです。労働法とは、経営側に比べて弱い立場にある労働者を守るため、前者に課されたルールなのですから、法律に無知なのは実にもったいないことです。

政府は来る人工知能(AI)社会に向け、文系理系問わず、全大学生にAIの初級教育を受けさせる方針を固めたそうですが、初歩的労働法の学習も必須にしたらどうでしょう。

荻野 進介(おぎの・しんすけ)
文筆家
1966年、埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、PR会社を経て、リクルートにて人事雑誌『ワークス』の編集業務に携わる。2004年退社後、フリーランスとして活動。共著に『人事の成り立ち』『史上最大の決断』など。
(写真=iStock.com)
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