けがや病気を理由に解雇を迫られるケースも

この2つの判例から分かるのは、職種が限定されていない正社員に対しては、特定の職種で適性に欠けるとされても、配置転換や教育訓練の実施によって、雇用関係を維持しながら、その能力の向上を促す努力が会社には求められるということ。

ただ、それも程度問題で、2013年、日本ヒューレット・パッカードで5年にわたる指導を会社や上司が行ってもまったく改善が見らない、人事評価が最低の勤務態度不良社員に対する解雇が有効とされました。

こうした判例に比べると、カルテの取り違えやブランド品買い付けのミスで解雇された先の事例は、あまりにも理不尽です。ブラック企業問題しかりですが、「労働法は中小企業の前では回れ右する」ということなのでしょうか。

仕事に関係したものにせよ、しないにせよ、労働者のけがや病気による能力の低下も解雇の要因となっています。

●プレスで指を挟んで骨折し、労災による休業補償を受けているが、仕事上のけがを理由に退職勧奨を受けている(正社員男性)
●持病の糖尿病について申告していたのに、それを理由に解雇を言い渡された。会社側によると、営業所でインスリン投与を顧客に見られるとサービス業として非常に困ること、万が一意識がもうろうとして倒れた場合、安全配慮ができないことから、退職してもらった(正社員男性)
●飛び込み営業でメンタル不調となり、連日の不眠、頭痛、めまいから欠勤を続けた。内勤の事務に移されたが仕事が手につかず、うつ一歩手前、適応障害と診断され、会社に誘導されて退職届にサインしてしまったが、真意ではない(非正規男性)

リストラされたのに事業は拡大中

ここまでは労働者側に非があるケースを見てきましたが、ここからは、会社が経営上の事情で解雇に踏み切った事例を紹介しましょう。先に説明した「解雇が合理的となる理由」の3つ目です。

●業務縮小のため、営業所を廃止し現場事務所にするので事務員は不要との説明で退職勧奨を受けた。退職の意思はないと返答したが、再度退職するよう通告され、退職日の延期を申し入れても拒否され、やむなく退職した(正社員女性)
●事務員。経営不振を理由に退職勧奨を受け、これを拒否すると解雇通告を受けた。会社側によると、会社の経営状況の悪化でメインバンクから早急な対応を要求され、やむを得ず解雇。人選基準は本人の勤務態度(仕事を依頼しても拒否される)と、1人暮らしで扶養家族もいない40代の女性であるから(正社員女性)
●上司との三者面談で、業績悪化による人員整理を理由に辞めてほしいと言われた。対象になった理由として出勤状態が悪いと言われたが、それは実家の父親が脳梗塞で倒れ、面倒をみる必要があるからであり、それは上司も承知のはず(正社員男性)
●経営不振を理由に解雇を通告されたが、自社ホームページやハローワークに事業拡大と称して大々的に求人を出している。積極的に求人活動をしているのに、本人に対しては業績不振で解雇というのは矛盾している(正社員男性)