「日本は解雇が厳しく制限されている」は大間違い
一方、裁判となると、その負担に耐えられるだけの資力を持った大企業やその社員でなければ、訴えの当事者になるのは難しく、しかもプライバシーは保護されません。そうした裁判に訴えてまでも、相手の主張を打ち負かしたいと双方が考えるくらいですから、それらは非常に特殊なケースと言ってもいいでしょう。
労働局によるあっせんの当事者は、圧倒的に中小企業とその労働者が多くなっています。その手続きは非公開で無料ですから、利用のハードルが低い。ただし、あっせんには裁判ほどの拘束力はなく、仮に労働者があっせんを申請しても企業側が拒否することもできますので、注意が必要です。
同書に掲載されている膨大な事例を見ていくと、最近よく言われている「日本では解雇が厳しく制限されている」「解雇規制の緩和で経営の自由度を高めるとともに、労働者側にとっても転職が活発になるような社会にすべきだ」といった論調が的を外れていることがよくわかります。
以上の事例のように、有休取得といった労働者に当然認められている権利を主張しただけで解雇されたり、仕事上のささいなミスが命取りになったり、実態はよくわからない「経営不振」というだけで、容易にクビにされているのが日本の雇用の現実です。
日本の会社のほとんどは中小企業です。そういう意味では、労働局に持ち込まれるあっせん事例は、裁判に比べて日本の標準的な労働紛争が多くを占めているのです。
今回は労働者の「行為」に着目した解雇事例を紹介してきました。次回は、労働者の「能力」に関わる事例を見ていきましょう。
荻野 進介(おぎの・しんすけ)
文筆家
1966年、埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、PR会社を経て、リクルートにて人事雑誌『ワークス』の編集業務に携わる。2004年退社後、フリーランスとして活動。共著に『人事の成り立ち』『史上最大の決断』など。
文筆家
1966年、埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、PR会社を経て、リクルートにて人事雑誌『ワークス』の編集業務に携わる。2004年退社後、フリーランスとして活動。共著に『人事の成り立ち』『史上最大の決断』など。
(写真=iStock.com)