育休を取得したら雇い止めに

濱口氏は、こうした労働者による当然の権利行使を認めず、それに対する制裁として会社が解雇を行った事例を「最も客観的合理性に欠ける」と指摘しています。

次の事例もそうです。

●保育園に勤務しており、産休後、育休を取得したいと申し出たが「パートに育児休業はない」と言われ、改めて話し合いに行ったところ、1年間の取得が認められた。ところが契約更新について確認すると「園児の人数が分からないので更新の約束はできない」と言われた。
ところがその後、園児が予定より増えたためとして、本人以外の2人のパートについては契約の継続を決定したが、本人は雇い止めとなった(非正規女性)

有休や育休取得は労働者の権利であり、当然、パートにも認められます。これらの会社の人事や経営者は労働法をまったく理解していないのでしょう。

「使えないものは捨てる。ぼろ雑巾と同じだ」

加えて、以下のように一般的な社会正義を主張する行為をとると、組織の裏切り者と見なされ、解雇されてしまう場合があります。

●打ち合わせのための理事会と称して理事と職員たちが宿泊ゴルフをしていることを新聞社に匿名で告発したことが会社に発覚し、諭旨解雇された(正社員男性)
●施設長が障害者である職員にパワハラしていることを代表者に訴えた同僚が解雇されたことに抗議したところ、自分も解雇を通告された(正社員女性)

同書によると、こうした労働者の個人的事情を問題にした解雇のうち、最も件数が多かったのが労働者の「態度」を理由とするものでした。たとえば、業務命令の拒否です。

●トラック運転手。運行予定の日、専務に運行費の前借りを要求したが拒否されたので「なんで貸せないんだ。金がなければ行けない」と言ったら、専務は「あんたには貸せないよ。行かなくてもいいから荷物を下ろして帰りなさい。使えないものは捨てる。ぼろ雑巾と同じだ」と言われたので帰ったら、懲戒解雇された(正社員男性)

専務にここまでの言葉を言わせたということは、この運転手にはよからぬ前歴が既にあったのでしょう。

以下は、対照的に「それはそうなりますね」というケース。

●防塵マスクの不着用や禁煙場所での喫煙など上司の作業指示に従わず、本社や顧客からも苦言を呈されたため、解雇された(正社員男性)

仕事に向き合う態度も問題になります。

●店内で踵(かかと)を引きずって歩く、ホールで待機中テレビをボーッと眺めている、業務中音を立てて缶コーヒーの栓を開けて飲む、等の勤務態様を上司が注意したところ「チッ、うるせーなー」と反発し、「今舌打ちしましたよね」と言うと「それが何か」と開き直るので、解雇を通告(非正社員男性)