「切り詰めて生活したいのでお金の管理の仕方を教えてください」
そう言うと、山内さんは目にいっぱいの涙をためて、ありがとうと何度もつぶやきました。私も胸がいっぱいになり、言葉につまっていると、娘さんがこう切り出しました。
「もっと切り詰めて生活したいので、お金の管理の仕方をトレーニングできるところをご存じではないですか。それと、就労先の探し方を教えてほしいのですが」
「ひきこもりの方の就労支援の団体があります。以前、私のお客さまから教えていただきました。その方のお子さまは人と会うのが苦手ということで、日中に居酒屋の清掃を一人でされていましたよ。家計指導は私の専門分野です。責任をもってご指導させていただきます」
そう言って娘さんの手を思わずにぎってしまいました。びっくりされたので、「すみません」とすぐに手を放しましたが、「慣れてなくてすみません」と、小さな声でつぶやかれました。
母は週3日の訪問医師として、長女は在宅で、仕事を始めた
その後、山内さんは希望の老人ホームに入所し、訪問医師として週3日勤務しています。休みの日は長女の家に行ったり、自室でくつろいだり、穏やかな生活を過ごしているそうです。長女はその後、家の近くの就労支援団体でトレーニングを受けた後、在宅でできる仕事を始めました。
子どものために親の希望を押さえつけることはない。ダメもとで伝えてみれば、いい結果が生まれることがある。そう気づかされた案件でした。
(写真=iStock.com)