ひきこもりの愛娘のため、引退を撤回して働く決意固める
老人ホーム入りで悠々自適な老後生活の計画が頓挫し、残念そうな山内さんに向かって、私は大きく首を振り、次の提案をしました。
「いいえ、第二の人生は山内さん自身のものです。山内さんのご希望を娘さんに伝えてみてはいかがですか。あと10年、年収300万円程度のご収入を得られるのなら、月15万円の仕送りをしても、手持ちの預貯金(1600万円)を取り崩さずに済みます。山内さんのご希望と現状を正直に伝え、働ける間は仕送りを続けるけれど、働けなくなったら自分でなんとかしてほしいと、ご相談してみてはいかがでしょうか」
「そんなこと、娘は受け入れてくれるのでしょうか」
「やってみないとわかりません。ダメなら違う道を考えましょう」
その後の相談で、年収300万円(月25万円)なら無理なく働けるのではないかということになり、知人の病院で10年間勤務医として働くとして家計収支を作り直し(図表4)、キャッシュフロー表も用意して長女と面会することになりました。
「お母さん、本当にごめん。ずっと頼りっぱなしで」
目の前に現れた長女は、清楚で折り目正しいすてきな女性でした。ご本人とお会いするとき、「なぜこの人がひきこもりに……」と思うことが多々あります。お世辞抜きですてきな女性だったのです。きっと気を使いすぎて疲れてしまうタイプなのかもしれません。
彼女に今後の母親の人生プランを伝え、シミュレーション結果を見せたところ、資料を隅々眺めて、隣に座っている母親を向いてこう言いました。
「お母さん、本当にごめん。ずっと頼りっぱなしで。お金のことは難しいからと避けてきたけど、生きていくってことはお金がかかることなんだね。まだ人は怖いし、人混みは苦手だけど、少しずつ克服していきたい。お母さんが元気なうちに、仕送りなしでも生活できるようになりたいです」
仕送りを月5万円減らしても大丈夫かと聞いてみると、それまでいっぱいもらっていたので、貯金できている分もあるし、月15万円でも生活できると、はっきりと言いました。
「山内さん、頼りになる娘さんですね」