1億円超の資産があっても台所事情が厳しいワケ
図表2・3を提示し、自宅を売却して得たお金をもとにして、老人ホームへ入所した後の想定家計収支についてお伝えしました。
医師を完全に引退し就労収入がない状態になると、年金(基礎年金と国民年金基金の計17万5000円)や以前に購入した投資用マンションの家賃収入(9万円)など「月の収入総額」(22万5000円)よりも、入所する老人ホームの管理費や食費、水道光熱費など施設利用の諸費用(計17万5000円)や自分の小遣い費などの「支出総額」(26万5000~27万2000円)が多く、毎月の収支は4~5万円の赤字となりました。
仮に毎月5万円を取り崩すと、預貯金(1600万円)は26年8カ月で枯渇してしまいます。山内さん90歳、長女60歳の時です。
「老人ホームに入ってからも、所得税や住民税、健康保険料、介護保険料で合わせて月4万円かかることを見落としていました。施設のパンフレットに書いてある支出だけなら、貯金を取り崩さなくても生活できると思っていました。また、元気だったらお小遣いやスマホは必要ですし、介護が必要になったら、介護サービス利用料を払わなければいけません。それに、この試算には、娘への仕送り額が含まれていません。ホーム入所は夢のまた夢だったのですね」
手持ちの不動産をただちに売却できない
ただ、山内さんには多くの資産があります。毎月家賃を得ているマンションの価値は3200万円、また亡き夫と建てた病院の土地代・建物代の価値が5000万円、さらに預貯金が1600万円あり、資産合計は9800万円でした。
1億円近い資産があるのだから、仮に預貯金が枯渇しても痛くもかゆくもない……と思えますが、支出の中に、長女への仕送り額を含めるとなると、話は違ってきます。それに家賃を得ている投資用マンションも、息子が経営している病院もただちに売るわけにはいけません。実質的には手をつけられない物件なのです。