NHKを除く、新聞社・民放各局の情勢調査では、ぎりぎり可決となる見込みであった。
「たいした活動もしていないのに、あんなに浮かれやがって」
「結局は永田町での自分たちのポジションがどうなるかだけが心配なんやろ」
今回都構想戦略本部メンバーに選ばれた9名は、当時、そんな楽観的な雰囲気を振り払うように、極度の緊張状態で開票状況を見守っていた。やけに喉が渇き、ペットボトルの水のなくなりが早い。
(略)
都構想「否決」の瞬間、一番泣き、怒りで震えたのが吉村だった
メディアの開票速報では、賛成、反対の一進一退の状況が刻々と報道されている。
それでも若干賛成有利の状況が続く。各区の投票箱が開票され、賛成多数か、反対多数か、そしてその票数が発表されるたびに、ホテルの会場からは大きな歓声とどよめきが沸き起こる。
「よっしゃ!」
「あかん!」
メディア関係者も含め会場に集まっている者の感情の揺れは益々激しくなる。
今回吉村が招集した都構想戦略本部メンバーの9名は、当時極度に顔面が硬直して、言葉も出ない。実はこのメンバーの多くは、橋下が都構想・住民投票戦略チームとして招集したメンバーとも重なっていた。橋下は自分を本部長にし、チームリーダー(副本部長)に吉村を指名していた。そして吉村がチームを編成した。このチームは、住民投票の成否は全て自分たちの責任だという、とてつもないプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。
22時32分。この時点では賛成が1万票ほど上回っていたが、都構想反対派が最も多い平野区が未開票であったことをもって、反対多数、都構想否決の速報が流れた。
賛成69万4844票。
反対70万5585票。
橋下が招集した都構想・住民投票戦略チームメンバーでもあった今回の都構想戦略本部メンバーの全員が、それぞれの場所で、大声を上げて泣いた。我慢しようにも我慢できない。声も涙も体の奥底から湧き出て来る。
その中で、嗚咽しながら、一番涙を流し、怒りで全身を震わせていたのが、吉村だった。
「あの住民投票の失敗は繰り返さない」
今の都構想戦略本部メンバーの目に涙はない。ぼんやりと壁の先を眺めていた視線が部屋に戻り、各メンバーは吉村の目を見定めた。メンバー全員の目の奥に、熱い炎が宿ったことを吉村は確認し、そして自身の胸の奥に言いようもない熱いものを感じた。(想像を加味して構成したフィクションです=敬称略)
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※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.148(4月16日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【圧勝・大阪ダブル選(2)】なぜ大阪維新は強いのか? 2015年の都構想「否決」が勝利への布石になった》特集です。