仕事の領域がきわめて広く、地理的にも広範な地域に散らばっているのが三井物産の特徴です。それに加えて、仕事の内容は刻々と変化しています。会社が姿を変えるのにともない、社員は本来、働く地域や分野をフレキシブルに変えていかなくてはなりません。

ところが、従来の商社には、いったんある担当部門に入ったら役員になるまでずっと同じ部門を担当するという習慣がありました。当社では2008年からこれを見直して、異なる営業分野間で100人ほどの大がかりな異動を実行しました。今年は営業とコーポレート部門間の人事交流も進めます。

もう一つ、あらゆる機会をとらえて私が社内に訴えているのは「よい仕事をしよう」ということです。あたりまえすぎて逆にわかりにくいかもしれません。ちょっと説明しましょう。

たとえば私が自動車メーカーの社長だったら「安くて性能のいい自動車を世界中の人々に提供しよう」という具体的なスローガンを唱えます。しかし三井物産は、いま述べたとおり世界67カ国に154カ所の拠点を構え、地下資源から食料までさまざまな仕事を担っているので、極端にいえば現場ごとに異なった物差しが存在します。

「よい仕事をしよう」という言葉の裏には、現在手がけているそれぞれの仕事の性格をベースとして、個人個人がよく考えて「よい仕事」のやり方を見つけてほしい、という思いがあるのです。

前提となるのは「個の確立」です。三井物産の社員には、外的環境や社内の立場などに振り回されることなく、しっかりと個を確立して、自分自身の「悔いのない人生」を送ってほしいと思うのです。

私たちの人生のなかでいちばんいい期間の、しかも9時から5時という「いい時間帯」を費やしているのが会社生活です。だとするなら、そこで手がける仕事は世の中にきちんとした価値を生んでいるとか、人々の役に立っているべきというのがあたりまえではないでしょうか。もしそうではないと感じることがあったとしたら、上司に対して思い切って「こんなことをやっていていいんでしょうか」と疑問をぶつけ、議論を深めていってほしいのです。

とりわけ商社マンとして気をつけなければならないのは「儲かるから」を絶対視する発想です。そういうさもしい動機から入った仕事であれば、たいていは三井物産の評判や信用を失墜させます。すると会社に真の意味での利益をもたらさないし、社員個人としても達成感を得ることはできません。