独身寮を整備し共同風呂を備えた

では「よい仕事」と「悪い仕事」を分けるボーダーラインはどこにあるのでしょうか。基本中の基本であるコンプライアンス(法令遵守)をしっかり固めたうえで、それを手がけることによって三井物産という会社のブランドがさらに磨かれていくような仕事。また、社員個々も「あいつはきちんとした仕事をする人間だ」といわれるようなやり方。これを意識していることが大切だと思います。

しかし、そこには画一的な基準はありません。社員一人ひとりが、健全な個人として善悪の判断を行うのです。そのためには、仕事にのめり込みすぎてはいけないでしょう。ある意味で、仕事との健全な距離感を保つことが大切なのです。

06年には希望者全員が入寮できる独身寮制度を整備しました。これはたいへん好評です。大きな共同風呂を備えたところと備えていないところがあるのですが、共同風呂を持たない寮の若手たちが「ぜひうちの寮にもつけてください」と直訴してくることもあるくらいです(笑)。やはり人間は集団の生き物ですから、共同生活をして同じ釜の飯を食い、酒を酌み交わすなかではじめて親しいネットワークを築いていけるのだと思います。

電話の時代からPCの時代に移ったことで、職場で机を接していても部下や同僚が外部とどのようなやりとりをしているかが見えにくくなりました。電話なら漏れてくる話し声から誰がどんな交渉ごとをしているか同じ部署の人間にはなんとなくわかったものです。しかしメールではそれがわからない。その意味でも、社員どうしのコミュニケーションを意図的に増やしていかなければいけないという思いがあり、独身寮の復活を仕掛けたのです。

最近の風潮を見ると、若手だけではなく、中堅の諸君にもいいたいことがあります。未来は予測できません。なのに、あふれかえる情報をもとに、あらかじめイメージ先行型の人生設計を行い、効率的に成功者のルートをとろうと考える人が増えているように思います。それでは手ごたえのある人生を歩むことはできません。

そうではなく「なるようにしかならない」と腹をくくって、目の前にあるやるべき仕事、やりたい仕事にぶつかっていくことが肝要なのです。そういう生き方をしていけば、もし思うような結果を得られなくても、絶対に後悔することはないでしょう。

(面澤淳市=構成 芳地博之=撮影)