私の場合、いいアイデアが浮かぶのは夜の時間帯です。だから、テレビを観ているときも、寝ているときも、すぐにメモが取れる用意をしています。

私は秘書にプリントアウトしてもらった年間予定、週間予定、1日の予定という3種類のスケジュール表をいつも持ち歩いているので、アイデアや気になることがあると、その余白にペンで書き留めます。会社ではデスクの上に切り取れるメモ用紙が置いてあり、気になったことがあるとそれに書いて、担当者に指示します。指示をすると、メモはその場でスパッと捨てるのが私のスタイル。社長から指示があれば、社内では誰かしら動き出します。そうなればメモはもう必要ありません。資料も溜め込まないほうで、目を通したらすぐに捨ててしまいます。デジタルの資料も同様にパソコンから消去します。これまでの経験から、保管した資料をあとで見返すことはまずないとわかっているから捨てるのです。

「グレーゾーン」と対峙、そのときどうするか?

メモとともに役員や部長へ指示を出す際に心がけていることがあります。それは、その仕事の目的や背景をしっかりと伝えること。社長からの指示となれば、部下たちは一生懸命に応えようとします。ときには、その反応が過剰になることがある。たとえば何か調べものを頼んだら、こちらが必要としないところまで完璧に調べようとします。それではロスを生みますから、何が目的で、あとでどう使うかというポイントをしっかりと伝えます。曖昧な指示は、余計な仕事を増やし、部下たちの貴重な時間を奪ってしまうことになりますから。

法人本部長、営業本部長のころには毎週のように土日にコースを回っていた。現在は年間45回ほどだが、社長就任でプレー中も仕事のことを考えるように。

「経営者は孤独」と言われます。毎日たくさんの人と会いながらも、経営の重大な意思決定を下すときには自分以外に頼る相手はいません。誰かに気軽に相談できないのはトップの宿命でしょう。もちろん日比野隆司会長や松井敏浩副社長(COO)に意見を求めることはありますが、最終的には自身で決めます。

私が決断で、最も意識する基準は「それが正しいか否か」。たとえ会社の利益になることでも、相手に損害を与えたり、あとで苦境に立たせるとわかっていれば、それは正しい行動とは言えません。

社長就任時には「正義と誠実」という言葉で、そのことを社員に訴えました。この判断基準は、30代半ばに課長になった頃から変わりません。ビジネスでは、必ずしも正しくはないが、悪いともいえないという状況、グレーゾーンがあります。私は部下たちがグレーゾーンに手を出すことを許しませんでした。「白か黒かをはっきりさせ、白でなければやるな」と繰り返し伝えました。それが原因で業績が悪くなろうと、ダメなものはダメなのです。部下たちには「どんなことでも一生懸命に頑張って取り組め、しかしグレーゾーンには進むな」という指導を徹底してきました。会社が持続的に発展するために「正義と誠実」は欠かせません。周囲の状況に流されず、一人一人が自発的に考えていくことで、この判断基準は守られていくのです。

中田誠司(なかた・せいじ)
大和証券G本社社長兼CEO
1960年、東京都生まれ。83年早稲田大学政治経済学部卒業後、大和証券へ入社。2007年大和証券グループ本社執行役。09年取締役兼常務執行役、12年大和証券専務取締役法人本部長、16年副社長を経て、17年4月より現職。
(構成=Top Communication 撮影=大槻純一)
【関連記事】
堀江貴文「日本人はムダな仕事をしすぎ」
頭のいい人がまったく新聞を読まないワケ
会議の"名前"を変えると時間が半分になる
なぜ仕事が早い人は優先順位を無視するか
会社が絶対手放さない、優秀人材6タイプ