EUの規制から離れることで、アメリカや中国など「より成長しつつある市場」との貿易協定の自由度が高まるという主張も、イギリスの輸出入の4~5割をEU相手の取引が占める現状をふまえれば、EUから離れる不利益のほうが勝ってしまう。結局、離脱後も貿易財については現実問題としてある程度EUの規制を受け入れざるをえず、そのために一定の「メンバーシップ料」をEUに払い続けることも避けられない見通しだ。

イギリスの金融セクターも、EUの法律に基づく免許を喪失するため、EU向けのビジネスをロンドンの拠点から行うことができなくなる。コンサルティング会社などの試算では、現在の総収入の2割程度が失われるという観測もある。離脱派が当初描いてみせた「EUの規制から離れることで、イギリスはより繁栄できる」「EUへの拠出金がなくなるから財政面でもプラスになる」といった約束は、幻想だったことが明らかになってきた。

両陣営から反発を食らった折衷案

そうした中で、離脱派と残留派の対立による保守党の分裂を回避しつつ、EU離脱に伴うダメージをできるだけ最小限にするためにつくられたのが、両者の主張の折衷案ともいえるメイ首相の協定案だった。しかし、中間点を取った落としどころのつもりが、離脱派と残留派の双方からかえって反発を食らい、19年1月16日の歴史的大差での否決につながった。

協定案の中で強硬離脱派が問題視したのは、北アイルランドとアイルランド共和国の国境管理をめぐる処理だ。本来はブレグジットとともに両者の間の「4つの移動の自由」が失われるが、それでは弊害が大きいため、20年までは「移行期間」として現状のオープンな国境を維持。それまでの間に新たな協定をまとめることになっている。

問題は、期限までに協定がまとまらなかった場合の「バックストップ(安全策)」だ。EUは北アイルランドのみをEUの関税同盟に残す提案をしていたが、国土の分断につながるという理由でイギリスが拒否。結局、もしまとまらなかった場合には「北アイルランドを含むイギリス全体がEUの関税同盟に残る。ただし、20年までの移行期間の期限を最大2年間延長できる」という案でメイ首相はEUの合意をとりつけた。

このバックストップ条項に、強硬離脱派は猛反発。イギリスを恒久的に関税同盟やEUの規則に縛り付けるものとして非難した。19年1月29日、英下院は、バックストップを代替策に置き換えることを求める動議を採択し、この点でEUから譲歩を引き出せば、保守党がまとまり、メイ首相の協定案が生き残る目が出てきた。しかし、肝心のEUが「再交渉」を否定している。このまますんなり着地というわけにはいかないだろう。