合格者は、優秀な人材ばかりか
あるベテラン歯科医師は、次のように語る。
「1969年、国は人口10万人に対し50人を目標に歯科医師を増やす方針を掲げていました。生活が豊かになるとともに増えた国民の虫歯に対処するには、それだけの“数”が必要と考えられていたわけです。その後、順調に歯科医師を確保できたところまではよかった。ところが、虫歯の予防が広く行き渡ったため歯科医師の診療を受ける子供は減っているのに、歯科医師の数は増え続けた。82年にはすでに過剰となることが懸念され、歯科医師の削減目標が閣議決定されるに至ったのです」
2016年時点で歯科医師の総数は10万人を超えている。国民10万人に対し歯科医師数は約80人となる。巷では「コンビニより多い歯科医院」などと表現されるようになった。それゆえ、かつて目標として掲げられていた「10万人に対し50人」が適正かどうかは議論の余地もありそうだが、ともかく歯科医師を削減するうえで、それが1つの指標とされることがままあるという。
このような“削減圧力”を反映してか、歯科医師国家試験の合格率は芳しくない。18年2月に行われた歯科医師国家試験の結果によると、受験者数は3159人、合格者数は2039人、合格率は64.5%だった。新卒と既卒を合わせて合格率90%を超えているのは国公立では東京医科歯科大、私立では東京歯科大のみ。半数以上が不合格という大学が3校もある。当然ながら“浪人生”も多いわけで、受験者数全体に占める新卒と既卒の割合は、およそ6:4だ。
“狭き門”となっている歯科医師国家試験。そこをくぐり抜けた合格者なら、さぞかし優秀な人材ばかりだろうと思いたい。ところが、必ずしもそうとは言い切れないとの見方もある。そもそも歯学部は大学入試の難易度がかなり低下しているからだ。
大手予備校の1つ、河合塾の難易度ランキングで見ても、偏差値50台がズラリと並ぶどころか、40台、30台などというのももはや珍しくない。もし、自分が患者として歯科医師にかかるなら、どの大学の出身者かが気になるほど、大学間で格差があるわけだ。