「金持ち」と「貧困」の分かれ目とは

歯学部に優秀な学生が集まらなければ、将来的に歯科医師の低下が懸念される。気になる受験生から見た歯科医師の魅力だが、現状はどうか。まず、歯科医は比較的開業しやすいと言われてきた。たとえ小さなクリニックでも、一国一城の主となれる点は見逃せない。実際、6割近くは診療所を開設したり医院を経営したりしている。

ただし、東京商工リサーチが18年5月に発表した「2017年度『歯科医院』倒産状況」によると、23年ぶりに20件台になった。そして「歯科医院の倒産は小規模医院を中心に増加をたどる可能性が高い」とされているのだ。

では、もう1つの大きな魅力であったはずの収入面はどうか。フルタイム勤務の場合、医師の平均年収が1233万円であるのに対し、歯科医師はそれより500万円近くも低い757万円である。しかも、これはあくまで平均。実際には2000万円以上の開業医が存在する一方、300万円台などといった歯科医師の例も珍しくないだけに、「貧困歯科医」と揶揄されるのもやむなしか。

だが一方で、年収1000万円を超える歯科医師も多い。自営業者や経営者として診療所などを開業しているケースでは、自分の収入以外に「設備投資に備えて」などの名目で内部留保を蓄えている点も忘れてはならない。かつてのように「年収2000万円や3000万円は当たり前」とはいかないが、依然として高収入を“狙える”職業の1つであることは揺るぎないようだ。

「投資を回収できるか、競争を生き残れるか」

また開業している場合、経営難に陥らなければ定年を考えずに働き続けられる点も大きなメリット。65~69歳の平均年収が1190万円もあることがわかる。

はたして、歯科医師の人生における収支はどうとらえたらいいものか。大学を選ばなければ歯学部に進学すること自体はさほど難しくない。ただし、私立なら6年間の学費として、2000万円プラスアルファ、あるいは3000万円プラスアルファがかかると言われている。それにもかかわらず、歯科医師国家試験に合格できなければ、さらにお金がかかるか、それまでかけてきた多額のお金が水の泡となる。首尾よく歯科医師になれたとして、開業するとしたらさらに数千万円の投資が必要だ。

ある若手の勤務歯科医は「親などから診療所を受け継げるならまだしも、自力で開業した場合、その後何年で投資を回収できるものか。そもそも過当競争と言われる中で生き残れるのか」と悩みを打ち明ける。

歯科医師が絶対に必要な存在であることは疑う余地がないだろう。国民のわがままな願いとしては、数の問題はともかくとして、質は落としてほしくない。いや、むしろ上げてほしいところ。ただ、そのためには歯科医師がもっと魅力的な職業であると世間に認められるようになる必要がありそうだ。