一人旅満喫中の主婦、日常と非日常を語る

編集部員の私は地方から東京に上京して、もうすぐ10年。いまだに慣れない満員電車で通勤し、職場では締め切りに追われ、土日の取材も多く、先輩からは雑用を押し付けられ、休む間もない毎日だ。

そんな私を見るに見かねてか、ある日のデスク(上司)からの「気分転換も兼ねて、四国のお遍路に行ってきて」との言葉で、今回お遍路に行くことになった。まあ、冬のお遍路なので、気分転換どころか、寒すぎて修行に近かったんですけどね(笑)。

お遍路の装備は、第一番札所の霊山寺などで一式そろえられる。お店の人によれば、服装に厳しい決まりはなく、「お遍路といえば、全身真っ白というイメージがあるんですが、あれはマスコミがつくったイメージだから気にしなくていいですよ」とお説教されたくらいだ。四国に来ても厳しいことを言われて、私は何かに取り憑かれているのではないかと不安が募った。

結局、私はマスコミらしく、全身真っ白の格好となり、お遍路を始めた。これが結果として大正解だった。何がよかったかといえば、一番は珍しがられて多くの人に話しかけてもらえたからだ。東京では、満員電車を無言で無理やり乗り降りするのが当たり前なので、挨拶を交わすだけで心が温かくなる。

「一緒に写真を撮ってもらえませんか」とお願いされることもあった。そのうちの1人が、広島から単身、軽自動車で徳島まで来たという主婦だ。白装束の面白い人がいると思って、声をかけてくれたみたいだ。

「今日は早起きして一人旅なの。ウチは共働きで、普段は仕事と家事や子育てで忙しいんだけど、年に一回は旦那に子どもと家を任せて、1人で四国に来るの。あなたも仕事で四国に来ているみたいだけど、残業は多いの?」

その主婦は仕事も家事も忙しい様子だった。私が答える間もなく話は続く。

「日常に追われている気持ちはわかるわ。家事をしていて思うのは、家事をやる人がほかにいないと、自分がやらないといけないと思ってしまうの。疲れていても、やらざるをえない。疲れすぎているときでも、ハイテンションで踏ん張ればなんとかなってしまう。人間って馬鹿力があるのよね。でも、たまに無になりたくなるのよ。日常とは違う、非日常に行きたくなるってこと。だから今日は一人旅をしに来たの」

一方的な話すぎて少し心配になったが、家事を仕事に置き換えると自分事のように感じる。主婦は語り続ける。

「ただ、旅は現実逃避じゃないの。日常に戻ったときに応用できるような発見があったらと思っているの。日常の中に閉じこもっていたら発見はないけど、旅に出たら気づきが得られる。それがきっかけで、日常が改善する。だから、たまには日常から離れて旅に出てみるって素敵なことなのよ」