カーネギーは人を動かす秘訣はただ1つ、「自ら動きたくなる気持ちを起こさせること」と記した。教えに接して、まさにそうなった者たちがいる。それぞれの体験をまとめた。
貫井一浩さん●人材サービス会社営業

未体験の異動先!「聞く」の徹底で、窮地から脱出

聞く側に徹して話し上手になったのが、三越伊勢丹ヒューマン・ソリューションズで法人営業を担当する貫井一浩さんだ。

トレーニングで、自分の価値観を考える光景。カーネギーの開発したメソッドは昔からほぼ変わっていない

もともと貫井さんは百貨店の販売スタッフとして勤務。それが2年前、異動で人材サービス会社の法人営業へと業務内容が変わった。それまで店頭で顧客との接客はあっても、クライアントとの人間関係をゼロから築き上げるのは未体験。相手を引きつけるトークが大切と考えた貫井さんは、商談中も「次は何を話そう」「沈黙が長い。まずい」などと自分が話すことばかり考えていた。結果、自分が言いたいことだけを伝え、相手の反応が鈍ければ商談をサッサと切り上げざるをえず、「何て口下手なのだろう」と落ち込んだ。

そんな貫井さんは『人を動かす』の中の一節から気づきを得る。「心から面白いと思って相手の話を聞く人は、たとえ何も話さなくても相手に話し上手な人だと感じてもらえる、というエピソードがあります。自分が仕事でやっていることは真逆でした」。

以後、商談の席で無理に話そうとはせず、「聞く」を徹底。するとクライアントがどんどん情報を語ってくれ、ときには「実は困っていたんだよ」などと胸の内を明かしてくれるようになった。そうして信頼関係ができると、別のクライアントを紹介してもらえるようにもなり、活躍の場は徐々に拡大。1年後には、各クライアントからの依頼も、今までの倍近くになっていた。

また貫井さんはトレーニングを通して、自分の感じたことを素直に吐露する重要性も実感。仕事の現場で、なるべく本音で話すようになった。貫井さんの同僚であり、一緒に受講した安藤友紀さんはそんな変化に対して「仕事がやりやすくなった」と語る。

「『この部分は大変だったんですよ』という弱音を聞けば、『じゃあ私がフォローできることはしよう』と考えられるようになりました。仲間意識が強まりましたね」