千葉弘崇さん●外資系IT役員

部下の声を傾聴。意見が上がるようになった

「最初は特に何かを学ぼうとは思ってませんでした」

人を動かす』D・カーネギー●話し方教室の講師だったデール・カーネギーが1936年に出版した「自己啓発書の元祖」とも呼ばれる書。「人を動かす3原則」など、合計30の原則が記されている。写真は創元社から発行されている文庫版。

そう語るのは、セールスフォース・ドットコム専務執行役員の千葉弘崇さんだ。もともと人数の多い営業部隊を率いるマネジャーとして活躍。業績も順調で、コミュニケーション能力にも自信があった。当時の自分を以下のように振り返る。

「特に自信と持論がある営業に関しては、自分の考えにそぐわない意見はほぼシャットアウトでした。部下から『提案内容の質を高めるべきです』という意見があっても、『いや、まずは案件の数を優先してほしい』と耳を貸すことが少なかったんです」

それがある日、上司から「カーネギーのトレーニングに参加してみては」と指示を受けた。最初は出席しても「自分には必要ない知識」と聞く耳を持たなかったが、周囲が一所懸命に打ち込み、賞賛されている姿を見て、自分もそこに入りたい気持ちが発生。やがて輪の中にくわわった。

トレーニングでは、相手にたくさん喋ってもらったり、話の中から価値観を探ったりするなど、人の話を傾聴する練習を重ねた。そこで数々の技術を習得した千葉さんは、部下の意見をいったん受け入れる余裕ができたという。

「それからは100%賛成ではなくても『その考え方も大事だよね』と言えるし、理解に苦しむ場合は『どういうふうにしていきたいのか、もう少し説明してみて』と深堀りできるようになりました。すると部下たちから意見が上がってくるようになったんです。今では、上からの一方的な押しつけでは部下の自立性は育たないし、イノベーションも起こりようがないと思っています。カーネギーで一番役に立っている教えは、『相手の意見に敬意を払い、誤りを指摘しない』。つまり簡単に否定しないということですね」(千葉さん)

今は「否定しない」の考えを発展させて、自分の主張に合わなくても「1度やってみろ」と部下の背中を押すようにもなった。かつての上司に自分をトレーニングに行かせた理由を聞いてはいない。しかし、「チームの人数が増えていくうえで、自分のキャパシティを大きくさせるために受講させたのではないか」と解釈し、感謝している。