もう“家電”メーカーとは呼ばせない。パナソニックがいま、大きく変わる。自社製品をつなぐ“まるごと”戦略は、家からついに街づくりにまで発展している。急遽、三洋電機、パナソニック電工を完全子会社化して、その次に目指す先とは……。
では、パナソニックの「まるごと事業」の最先端はどうなっているのか。
三洋は、10年秋に兵庫県加西市に加西グリーンエナジーパークを稼働させた。むろん「公園」ではない。環境配慮型の最新次世代工場だ。JR姫路駅から車で約1時間。豊かな自然環境に囲まれた5万人の小さな市に、新工場は立つ。
同工場の生産ラインでは、ハイブリッド自動車(HV)用のリチウムイオン電池や車載用ニッケル水素電池が次々に製品化されている。技術の粋を集めた最先端の製品を生産する工場だが、狙いはそれだけではない。
「ここは三洋電機のエネルギー技術の粋を集めたものであり、技術者の努力の結晶で、低炭素社会の実現に向けた壮大な実験場です。電力を大量に消費するビル、病院、工場など大規模施設におけるCO2の削減をターゲットにした、実証実験を開始します」
三洋の佐野精一郎社長は、報道陣の前でこう述べた。加西工場は、パナソニックグループの掲げる「省エネ」「創エネ」「蓄エネ」をまさに具現化した施設だ。
まずは、「創エネ」。工場や管理棟の壁面や屋上には、「HIT太陽電池」が設置されている。これは、世界最高レベルの変換効率(光をエネルギーに変える効率)を持つ三洋自慢の太陽電池で、施設内では、一般家庭約330世帯分に相当する1000キロワットの発電能力を持つ。
「省エネ」でも工夫をこらす。人感センサーを使った空調・照明制御システムや電工が開発した、直流で建物内に配電する「DC配電」システムを導入、直流で動く機器に直接、電気を供給可能にして、エネルギーロスを最小限に抑えた。
発電所でつくり出された電気は直流だが、変電所を経て家庭に届く電気は交流だ。電気製品は交流を直流に変換して動いているが、実は変換時にエネルギーロスが生じて効率が悪い。太陽電池が生み出す電気は直流なので、「DC配電」を通せば効率がいい。結果として省エネにつながるのだ。そして、これらの省エネ機器は最新のエネルギーマネジメントシステムで制御されている。
最後は「蓄エネ」。加西工場では、三洋の技術を結集させた世界最大級の大型蓄電システム(バッテリーマネジメントシステム/BMS)が稼働している。
黒いDVDプレーヤーにも似た蓄電用標準電池システムは、1台に312本のリチウムイオン電池が内蔵され、1.6キロワットアワーの蓄電が可能だ。ちなみに一般家庭の消費電力は、1日当たり約10キロワットアワーだ。蓄電用標準電池システムが5台程度あれば、1日に必要な電力量をまかなえる計算だ。
工場内にある蓄電池棟は、まるでコンピュータのサーバールームである。蓄電用標準電池システムが10台収納されたラックが80架設置され、それぞれをバッテリーマネジメントコントローラーが制御する。これを1個の電池のように使うのがBMSだ。
ただし、蓄電池として使われるリチウムイオン電池は、極めてデリケートな製品なので、十分な品質管理が必要となる。品質にもよるが、衝撃の強さいかんによっては、「発火」のリスクもある。そんな繊細で高品質を求められる電池を束ねたのがBMSで、相当な技術力が必要だ。リチウムイオン電池で1日の長のある三洋ならではのノウハウだといえる。