70%台という高支持率でスタートした鳩山由紀夫政権が失速し、崩壊に向かっていく過程を圧倒的な筆致で描く。
単なる政界内幕物とは違う。経済部出身で、財政制度等審議会臨時委員や政府税制調査会委員などを歴任し、霞が関の手口をよく知っている。かつて、安倍晋三政権ではブレーンの一人として政界の裏側をつぶさに見てきた。著者は、政策も政局も知り尽くしている。
5月20日の発売で、直後の6月2日に鳩山首相は辞任した。『官邸敗北』というタイトルをまさに地でいく思わぬ展開に驚かされた。
「書店に並んだとたんに古本になってしまいました」と著者は苦笑するが、先の参議院議員選挙で惨敗した菅直人政権の行く末、民主党の今後を見通すうえでも、本書は大いに参考になる。
「政治とは何かといえば、法律をつくることです。そのための一つは目標を設定すること。もう一つは目標を実現すること、つまり法案成立までのプロセス管理です」
例えば、鳩山前総理は普天間移設に関して、昨年の総選挙前の7月に、すでに「国外、少なくとも県外」と発言している。党内で議論を収斂させることもせず、唐突に結論を言い出したことで、関係閣僚からも議論百出。プロセス管理がまったくできず、迷走に拍車がかかった。
参院選で民主党が敗北した一因といわれる菅首相の「消費税増税」発言もまったく同じ。この発言も、次に起こる“何か”を暗示していそうだ
「株式市場は予想を先取りして動きます。明日、株価が下がると思ったとたん、もう足下で下がり始めている。小泉政権以後、政局も、株式市場と同じように先取りして動くようになりました。参院選の2週間前には、民主党があれほど負けるとは思っていなかった。9月の民主党代表選挙だってどうなるかわかりません。“政局の株式市場化”が進んでいるのです」
本書は“政局の株式市場化”の序章としても読める。