介護食や給食としての引き合いも

一連のプロセスを経て、プロジェクトメンバーの納得がいくまで商品をつくり込んだ。その結果、意外な現象が起こる。

個食対応を目指して開発された「やわふく」が、単身者よりもむしろ3~4人家族を中心に購入され、また、特に「やさい豆」に関しては、20~30代の、これまで煮豆を食べていなかったユーザーが“惣菜”として購入している事実が販売データから浮かび上がってきたのである。つまり、“煮豆離れ”した人を呼び戻すという当初の目的を達成しただけでなく、期せずして新しい市場を開拓してしまったわけだ。こうした事態を受けて、フジッコは販促に「個食」という表現を使うのをやめ、「食べ切り」という言葉に切り替えている。

大手コンビニでの取り扱いも決まり、さらに現在、「やわふく」には介護食、学校給食、おせち料理の一品としての引き合いが数多く寄せられているという。これも当初の目的からすれば、まったく想定外のニーズである。

つまり「やわふく」は、味、容器から煮汁に至るまで、徹底したつくり込みをすることによって、単に「おまめさん」の小分け商品であることを超えて、まったく新しい商品へと脱皮を遂げたのだ。そして、とことん語れるほどの豊かさを内在する商品力が、つくり手の思惑を超える新規マーケットの開拓につながっていったのである。これが「やわふく」大ヒットの真相だ。

「よいものは必ず売れる」わけではない。だが、とことん語れるほどのつくり込みをしてしまうフジッコのDNAに、市場に対する敬虔な姿勢が刻み込まれていることだけは間違いないだろう。(文中敬称略)