業界人たちの“ダボラ”を裏取りせずに書いてしまう

「この業界には、この人を蛇蝎(だかつ)のごとく嫌う人もいる。私にとっても好きな部類に属する人ではない。否、彼とは今回がほとんど初対面だから、彼個人というより、あの雑誌が嫌いだった。

現役編集長時代はもちろん、今でもほとんど読まない。しかし、困ったことに編集部員や知り合いが、こんなことを書かれていたとコピーをして届けてくれたりするので仕方なく読んだことがあるが、そのほとんどは読まなければよかったと後悔することばかりだった。

それでもこの業界を知ろうとする学生や業界人を中心に『噂の真相』は確実に部数を伸ばしてきたようだ。

そして昨年、あの『朝日新聞』が一面トップで『噂真』のスクープ、『東京高検の則定検事長の女性問題』を取り上げてから二段階ぐらい評価が上がったのではないかという向きもあるが、そんなことはあるはずがない。

この雑誌の凄さは、出版業界の中で流れている口コミ情報や真偽がわからない噂話程度のことを活字にしたところにある。新宿のゴールデン街や銀座のバーで業界人たちが酔った勢いでダボラを混ぜながらしている話を、近くでジーッと耳をそばだてていて、裏取りなどほとんどせずに書いてしまうのだ。だが、そんな噂話の中にも、時にはいくばくかの真実がある。それに、これこそがメディアの原点かもしれない。

『噂真』はいつまでも“書かれた奴には絶対嫌われる”路線を堅持していくべきだし、彼が編集長でいる限りクオリティーマガジンになろうなどとは露ほども思っていないはずだ」

「権力につけ込まれるような危ないことには一切関知しない」

ゲストとして出てもらって、この書き方はないだろうと、私が岡留の立場ならそう思う。

だが、彼はこう書いているのである。

「別段エキサイトする場面もなく、元木氏の意外におだやかなイメージに少々驚く。しかしあがってきたゲラを見たら、対談部分はともかく、元木氏の前口上にはいささか皮肉めいた分析が書かれており、ナルホドと納得する」

大人の対応である。

対談の中で、則定報道以降、刑事や公安が身辺を嗅ぎまわっているようだが、大丈夫かと聞くと、

「あんまり言うと格好良くなっちゃうんだけど、弱みを権力に見せたら絶対潰されますからね。聖人君子だとは絶対言いませんけど、それに近い形をせざるを得ないということですね。つまり権力につけ込まれるような危ないことには一切関知しないっていう日常生活を生きざるを得なくなっちゃったっていうのはありますよね。スキャンダル雑誌をやっている以上は、ね」