売れっ子や大御所の作家のスキャンダルが載っていた

珍しいこともあると思いながら、一つ会合に顔を出して帰宅した。紙袋の中を探したが封筒が見つからない。ポケットの中にもない。落としたわけはないと思うのだが。

後日、岡留に会った時、「あの封筒には紐が付いていて、オレが出る時それを引っ張って取り戻したんじゃないのか」と冗談でいうと、苦笑いしていた。

「噂真」の売り物はスキャンダルだが、出版業界の裏話を語り合う「週刊誌記者匿名座談会」もよく読まれていた。

彼がいうように、長い間雑誌をやっているから人脈が蓄積されているのだろう。私も知らない講談社の不祥事や人事が出ていて驚いたことが何度かあった。

講談社には出入りの書店があり、そこで買うといくらか安くなる。発売日には、書店の人間が山と積んだ「噂真」を代車に乗せて運んでいたが、スキャンダルよりも、自分の会社を含めた業界の裏情報が気になって購読している人間が沢山いたようだ。

今一つ、「噂真」を編集者が挙って買い求めた理由は、作家、評論家、マスコミ界の有名人たちの恋愛沙汰を含めたスキャンダル情報が載っていたからだ。

先の本にも、「売れっ子や大御所といわれる作家たちのスキャンダルや批判記事は、現在のマスコミにおいても根強いタブーになっている」が、作家について詳しく知るには、その作品だけではなく、男女関係を含めた私生活までのアプローチがどうしても必要になってくる。こうした作家たちの私生活にまつわる情報が後世、知られていなければ、その作家の本質や背景も浅い理解にとどまってしまうと主張しているが、全く同感である。

作家スキャンダルは、日本で最大のタブーとなってしまった

生島治郎が韓国女性と極秘結婚していた。渡辺淳一と川島なお美のラブロマンス。桐野夏生と講談社某氏との密会など、挙げればきりがないが、スキャンダルばかりではなく、文壇という摩訶不思議な世界の権力争いから作品批判まで、「噂真」でなければ読めない貴重な情報であった。

雑誌が休刊するということは、その雑誌がもっていた情報も無くなってしまうのである。

「噂真」があれば毎月読めた作家や業界人たちの噂やスキャンダルが、雑誌が休刊して手に入らなくなってしまった。脛に傷のある作家は、休刊の報を聞いて大喜びしたはずである。

休刊記念号に、川島なお美とのことを何度も報じられた渡辺淳一がこう書いている。

「岡留のバカ!! ホントは殺してやりたいくらいだけど、我慢してるんだ。(中略)まさか復刊なんて言いださないだろうな。バカヤロー!!」

今や文春砲といわれ、不倫している連中に恐れられている週刊文春も、事件でも起こせば別だが、売れっ子作家の噂話さえ書かない。週刊新潮然りで、講談社、小学館、集英社の週刊誌はいうまでもない。

新聞も連載小説があり、コラムを書いてもらったりするから書けない。もちろんテレビは、ドラマ化、映画化で儲けているから、取り上げない。

かくして、作家スキャンダルは、日本で最大のタブーとなってしまったのである。