もっとも、こうしたピンポイント的なアプローチが2018年においてすでにみられた。たとえば、中興通信(ZTE)との取引停止(後に巨額な罰金と条件付きで制裁解除)が個別企業をアタックのターゲットにしたよい例であり、孟晩舟逮捕事件、「チベット旅行対等法」の施行と中国人ハッカー提訴は個別企業/組織と個人を同時にピンポイント・アタックされた事例として取り上げることができる。
中興通信を除き、他の三件がいずれも2018年末間際に実行されたのはあながち偶然なこととは考えにくい。換言すれば、ピンポイント・アタックが2018年の時点においてすでに対中関係を動かす有効なレバレッジとして確立されていた。
こうした判断が正しいならば、2019年に入ってから、米国は中国の経済、ひいては政治に重大なインパクトを与える企業や組織、個人を選んで制裁を加え、こうしたピンポイント的なアタックを本格的に展開することによって中国の変化を強硬に促していくことになろう。
日本は二者択一を迫られる年に
米中関係がこのようになるなかで、日本がどのように立ち位置を示していくかも大きな課題になろう。中国サイドからみれば、米国からの攻勢を有効にかわすに当たって、同盟国を機軸に対中包囲網を形成しようとする米国の戦略をくじくことが不可欠である。
一方、日本サイドからみた場合、世界最大市場の一つとしての中国の魅力が依然として大きい。現に、米中関係の悪化を日本にとって「漁夫の利」を得るチャンスにすべきだとの論調が聞かれる。
ところが、米中競争が通商分野から経済開発理念、価値観レベルに広がるなかで、日本がいつまでも第三者的に対立を傍観する立場で貫くことはできまい。自由民主主義と市場経済といった価値観を守るために、米国との同盟関係を守り抜くか、目の前の経済的利益の追求を目的に中国の援軍になるか、2019年は日本にとって大きな決断に迫られる年になるかもしれない。
※筆者は本稿を昨年12月25日に書き上げたが、編集部の都合などから掲載まで時間がかかってしまった。その後、米中閣僚級の通商協議の開催などを含め米中間で激しい駆け引きが続いているが、本稿の見立てには大きな変更はない。
日本総合研究所研究理事
1983年中国復旦大学卒。1990年東京大学大学院博士課程修了後、日本総合研究所入社。香港駐在員事務所所長、日綜上海諮詢有限公司社長・会長を経て2006年より現職。その間、ハーバード大学客員研究員やジョージワシントン大学客員研究員、ウットロウィルソン国際学術センター公共政策スカラー等を兼務。専門は中国の政治・経済と米中関係。主な著書に『中国 静かなる革命』(日本経済新聞出版社)がある。