トランプ政権の対中アプローチが変化を見せている。経済だけで対立するのではなく、人権や安全保障など包括的な分野で、強硬姿勢を示すように転じたのだ。その狙いは何か。日本総研の呉軍華氏が分析する――。
中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長の逮捕は、米国の対中戦略の転換を象徴している。(裁判所に出廷するため自宅を出るファーウェイの孟副会長兼CFO 写真=ABACA PRESS/時事通信フォト)

米国の対中戦略は「引き入れ」から「封じ込め」に転じた

最初に、昨年10月4日に行われたペンス副大統領の演説の意味を確認しておきたい。この演説は、米国が対中戦略の転換を高らかに宣言したという点で歴史的なものだった。

演説の注目点は、ニクソン政権以来の方向転換であるということ。政権によって強弱はあるものの、米国の対中戦略は中国を国際社会に引き入れるエンゲージメント(engagement)が基本だったが、実現できるかどうかは別にしてコンテインメント(containment・封じ込め)に転じた。また、対決をしていく分野も、これまでのように経済に限定せず、人権や安全保障なども含む包括的なものへと転じた。このペンス演説がトランプ政権の対中戦略の根幹を成している可能性が高い。

まだ演説の余韻が残る12月1日、米当局の要請で中国の通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)がカナダで逮捕され、同19日、トランプ大統領が連邦議会で可決した「チベット旅行対等法(The Reciprocal Access to Tibet Act of 2018,H.R.1872)」に署名した。さらに20日、米司法省は米政府機関、軍、企業などの情報を盗んだとして中国国家安全省につながるハッカー集団「APT10」メンバー二人を起訴した。

人的交流を含んで対中関係を全面的に見直す

中国を代表するグローバル・ハイテク企業としてのファーウェイのステータスと孟晩舟逮捕に対する中国政府の強烈な反発等もあって、孟晩舟事件が事件と直接的な関りを持つ中国、カナダと米国だけでなく、日本を含む他の国々でも大きく注目されている。

これに比して、米国を含め、「チベット旅行対等法」が成立したことへの内外の関心が限定的である一方、中国人ハッカー提訴に対しても、もっぱらサイバーセキュリティや知的財産権の保護といった視点から分析している。

しかし、筆者は、今後の米中関係の流れを見極めるに当たって、孟晩舟事件だけでなく、「チベット旅行対等法」と中国人ハッカー提訴も今後の米中関係の流れを見極めるに当たってきわめて重要な示唆を与えてくれているとみる。

「チベット旅行対等法」の可決は米国が「対等(Reciprocal)」、つまり、米国・米国企業・米国人に対して中国の扱い方と同じな扱い方で中国の関係機関や企業、個人に対処するのを通商・経済分野だけでなく、人的交流を含んで対中関係を全面的に見直す基準として応用しだしたことを意味する。一方、中国人ハッカーを提訴したことは米国が国家レベルだけでなく、個別な組織と個人を制裁の対象に取り上げ、これによって、中国政府だけでなく、中国社会により大きなプレッシャーをかけていこうとしているのではないかと思われるからである。