貿易戦争「停戦」も一時的なものに終わる

ただ、貿易を中心とする経済的リンケージが引き続き米中関係の「和」を支える最大の柱としての役割を果たすものの、米中経済関係は2019年においてアップアンドダウンしながらも一層悪化していくと予想される。

周知の通り、米中貿易関係は2018年12月1日のトランプ大統領と習近平国家主席による首脳会談によって、悪化の一途を辿ってきた流れにひとまず歯止めがかかった。12月12日、中国が米国産大豆の輸入を再開したとのニュースが流れ(※1)、同14日、中国財政部が2018年7月6日から中国製品の関税を引き上げたトランプ政権への報復措置として、米国産自動車と関連部品に上乗せした25%の関税を、2019年1月1日から3月31日にかけて撤廃すると発表した(※2)。一方、米通商代表部も同じ日に、2019年1月1日に予定された2000億ドルの中国製品に対する制裁関税の引き上げを2019年3月2日まで猶予したことを公式に表明した(※3)。

しかし、ただいまの米中貿易関係の緩和が、あくまでも目の前に迫っている経済問題の圧力を、とりあえずかわしていこうとする双方の短期的思惑が一致し、過去一年来ダウンし続けてきた米中貿易関係が、たまたまアップの局面に入ったに過ぎない。米中双方の国内政治と実体経済の動き次第で、先般の首脳会談で合意された90日の「一時休戦」期限としている2月末以降、ひいてはその期限を待たずにして通商問題をめぐっての戦火が再び激しく燃え上がる可能性が高い。

(※1)Exclusive:China Makes First Big U.S. Soybean Purchase Since Trump‐Xi Truce,Reuters,Dec.13,2018
(※2)中国暂停对美汽车加税 财政部:落实两国元首共识具体措施、環地網、2018年12月15日
(※3)U.S. sets new March 2 date for China tariff increases amid talks,Reuters,Dec.15,2018

ピンポイント・アタックで中国を揺さぶる

さらに、2019年に入ってから、前述の通り、米国が「対等」を基準に米中関係の幅広い再編を求めていくとともに、貿易戦争の代わりに人権や知的財産権等を侵害し不公平な貿易慣行を行なった中国の関係機関、企業、または個人をターゲットにするようなピンポイント・アタックがトランプ政権にとって、中国との関係を動かすレバレッジになると予想される。

無論、これは貿易戦争が終息することを意味するわけではない。あくまでも対中関係を動かすレバレッジとしての貿易戦争が2018年のような効用を果たさなくなるだけのことである。その背景に、貿易戦争に勝者がないといわれる通り、程度の差はあるものの、貿易戦争によるネガティブな影響が米国でも次第に顕在化してくるのが不可避である一方、制裁関税の引き上げも制裁規模もいずれ限界を迎える。

こうした状況変化が予想されるもとで、トランプ政権にとって、相手(中国)への打撃が大きい割に自分自身への影響が相対的に小さい、より効率的なレバレッジが必要となってくる。そこで、ピンポイント、つまり個別企業または組織、個人をアタックすることが対中関係を動かす主たるレバレッジとして使われる可能性が高い。