武元氏が紹介した人材のなかには、大手家電メーカーの地方支社トップから病院の事務長に、大手住宅のトップセールスから食品メーカー経営企画室のIR部門に転職した事例などがあり、成功実績は多い。無関係に見える職種でも、「自分の持っている理念・信条と企業風土が合致さえしていれば、業種や職種の壁を越えた転職で結果を出すことは可能です」と武元氏は語る。
期待の即戦力ほど、注意が必要
ミドルの転職が活況になってきているとはいえ、誰もがバラ色の成功を収めるわけではない。
「調査によれば、過半数のコンサルタントが『面談した3人に1人は転職すべきではない人だった』と考えています。また相当慎重に検討しているはずなのに、ミドル層の転職者のうち、3カ月以内の退職が5%にのぼるという統計もあります」(天野氏)
転職経験のあるミドルのうち、「転職前の期待と転職後の実態にギャップがあった」と考える者は7割弱。新天地では、そこでまた新しい不満が生まれるのだ。
そして異業種転職が盛り上がる一方で、同業種・同職種の転職は注意が必要という指摘もある。
「企業はミドルに即戦力の期待をかけますが、実は即戦力の評価が高い人ほど、『入ったらすぐに結果を出さねばならない』という意気込みや焦りを持っています。そこで成功体験を収めた今までのスタイルを貫こうとして、失敗するケースを数多く見てきました。転職後の環境にすぐ適応できる人は、全体の2割ぐらいです」(武元氏)
新しい企業になじめないミドルは、マネジメントスタイルの違いにつまずくことが多い。トップダウン式の企業で活躍していた人材は、ボトムアップ式の企業に行くと結果を出すのが難しく、逆もまた然り。転職前、業務内容や条件は慎重に確認するのに、企業の体質や文化は見落としがちだという。
とはいえ、現在、ミドル層の転職市場が活況であることは間違いない。「チャンスは広がっているので、焦らず、慎重にやるべき」(天野氏)というアドバイスを参考に、新しい環境を探してもいいだろう。
ミドル世代を対象にした登録型転職サイト「ミドルの転職」事業部長。2005年エン・ジャパン入社。以来、転職支援に従事。16年4月より現職。
武元康明
半蔵門パートナーズ代表
航空業界を経て、21年の人材サーチキャリア、2万人超のインタビュー実績を持つトップヘッドハンター。2008年より現職。