2018年度から始まった「新専門医制度」では、研修医が地方を転々とすることになった。その狙いは医師の都市偏在の解消だというが、医師の坂根みち子氏は「新制度は若い医師の人生を管理し、『奴隷化』するものだ。女性医師の出産や子育てへの配慮もない。これでは医療現場は崩壊してしまう」と警鐘を鳴らす――。
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「専門医制度」はひとごとではない

まず、国民の皆さんに知ってほしいのです。専門医制度の問題は皆さんが日々診療を受ける医療機関に医師がいなくなるという問題につながることを。

2018年度から専門医の質を担保するために、日本専門医機構による専門医制度(新専門医制度)が始まっています。専門医は法律に基づくものではなく、これまでは各学会が専門医を認定する業務を行っていました。しかし、専門医の質のばらつきが問題になったことから、専門医の認定を統一的に行う第三者機関である、日本専門医機構が設立されたのです。

昨年末には2019年度の専門医研修の希望が締め切られ、大勢が判明しました。傾向はほぼ1年目と同様であったため、この先の展望が固まりつつあります。この制度により国民と若手の医師たちがどれほどの影響を受けるのか、少しでもわかりやすくお伝えしてみようと思います。

現在、医師国家試験合格後2年間の初期研修を終えた医師たちの約9割が、専門医制度の研修に入っています。例えば、内科の場合なら、専門医研修医(=専攻医)として3年ほど内科全体の研修を受けた後に、循環器内科や呼吸器内科、消化器内科等、「サブスペシャリティ」と呼ばれるさらに専門領域の研修へと進むといった内容です。

内科、外科、産婦人科、小児科を選ぶ人が減っている

しかし、この制度には大きな問題があります。内科や外科、産婦人科や小児科など、なくてはならない科を選ぶ人が減っているのです。2019年度の内科の専攻医希望者は、山梨県・福井県・高知県においては、各県たったの9名しかいませんでした。2019年度の内科全体の志望者は、2678名(前年2670名)と横ばいでしたが、制度開始1年目の2018年度の時点ですでに、内科の希望者はそれまでに比べて15%ほど減少しています。希望者の研修先は東京都が521名で、東京一極集中の構図が固定化しつつあります。

外科の専攻医はどうでしょう。今年の希望者は、少ない方から、高知県・佐賀県1名、和歌山県・宮崎県2名、山梨県・山口県・徳島県3名、福井県・島根県・大分県4名、滋賀県・鳥取県・沖縄県5名、香川県6名という、誠に心もとない状況で、全体では788名(前年805名)でした。

県全体で毎年数名の専攻医しかいないところは、一体どうなってしまうのでしょう。この先これらの県では、必要な手術を県内で受けられなくなるかもしれません。また緊急時には命に関わる事態になることも想定されます。